15年前の味覚
私が10代の頃、LINDT(リンツ)というチョコレートブランドが地元に上陸した。
とあるファッションビルの特設会場に出店しており、物珍しさとトレンドを追う若者(もちろん私を含め)で溢れ返っていた。
今も昔も私はまあまあ食に貪欲である。制服姿で鯉のうま煮を買いに行ったり、学校帰りにサンマを買い、捌いて刺身とつみれ汁を家族に振る舞ったりと、食べるも作るも好きだし、珍味も臆せず口に運ぶ。フジツボやマンボウも食べたことがある。
そんな私も当時はトレンディな若人で、異国のチョコレートと聞いて迷わず飛びついた。リーマンショックの只中でアルバイトも見つからず、なけなしの小遣いを握りしめて赴いたあの日、ご試食いかがですかと定番で一番人気というミルクガナッシュ入りのチョコレートを食べてみた。
私は踵を返した。
「明治の板チョコのほうが美味しい」
当時の私はそう結論付けたのだ。あのガナッシュのバター味は私が定義するミルクチョコレートから逸脱したものだった。こうして私のリンツ上陸騒動は静かに幕を閉じた。
その後、何度かリンツを頂いたことがあったのだが、そのたび食べても感想は変わらなかった。一人じゃ食べ切れないというていで後輩や同僚にあげてしまった。そのたびにとても感謝される。リンツに迎合されない味覚の私は、これからもあの「輝くたま」に羨望の眼差しを向け続けるのだった。
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