熱き漢、岡山一成が作るチームとは?
関東サッカーリーグ1部後期第5節にして、やっと今季初のVONDS市原の試合を見た。
試合前にスコールのような雨が降ったこともあり、東側の空にはキレイな虹も掛かっていたが、この日の前半の戦いは虹のような美しさだけではなく、球際での力強さを見せつけて相手を全く寄せ付けない完璧な試合を見せてくれた。
そして後半。いきなり沼選手が5点目を奪い、後半3分の時点で勝負有りという感も強くなり、『この先何点取るんだろうか…』ということも頭をよぎるほどだった。だがしかし、大差がついてしまった試合では『やや大味な試合』になってしまがちだが、この試合でもそんな傾向が見え始めてしまい、終盤に差し掛かってくると、相手の「1点でも取り返す」という気迫を前面に押し出すプレーに押し込まれる場面も見え出してしまう。そんな中で、アディショナルタイムに失点を喫してしまい、大勝したはずなのに、なぜか釈然としない気分で終わったこの試合だが、監督が試合後の選手にどんな声をかけるのかに注目していた。
これまでの取材を通じて、このような試合にカミナリを落とす監督も当然いたし、特に気にせず「大勝したが次も引き締めて準備しよう」と淡々と話す監督など、その対応は人ぞれぞれだが、監督就任1年目の熱血監督の口から出た熱いコメントは、ちょっと微妙に終わった試合の余韻を吹き飛ばす熱いものだった。
『前半はいいサッカーができた。その部分はとても満足しとる。でも後半はちょっとうまく行かんかった部分もあったが、俺はそこについて何も不安には思ってはおらん。選手それぞれの中でも、ちょっと不満に思ったこともあるかも知れんが、そういうことがあったら全部俺に言って欲しい。俺はみんなが考えていること、思っていること、みんな受け止めるつもりだから、何かあったらどんどん俺に言ってきて欲しい。今日の試合はね、これまで4試合で作ってきた流れを止めず、しっかり勝ち切って、いい状態で次の栃木シティとの試合に繋げていくことが一番重要だったんだから、俺はそういう部分ではこの結果にホンマ満足しとる』
その後も、選手たちの気持ちを高めるキーワードを投げかけていく岡山一成監督だが、常に熱くチームを盛り上げていく「彼ならでは」の巧みな掌握術に、チームの強さをみた気もした。しかしだ、「岡山劇場」という名で、かつての所属クラブでサポーターを熱く盛り上げた彼の人柄と情熱だけではなく、この日の前半に見せた巧みなポジショニング、ボール回しの正確性、球際の強さといった戦術的部分とフィジカル部分の高さにも驚かされるものがあった。
岡山監督といえば、市原の監督に就任する前は、鈴鹿アンリミテッド(現・鈴鹿ポイントゲッターズ)のコーチとして、本国スペインでも高い戦術眼を兼ね備えた女性指導者として評価されてきた、ミラグロス・マルティネス・ドミンゲス(以下ミラ)監督を支えていたが、鈴鹿が武蔵野と対戦した際に、コーチ時代の岡山監督からこんな話を伺っていた。
『ミラさんの戦術論っていうのはホンマ凄いんです。やっぱり本場スペインのサッカー理論は緻密だし奥が深いんです。僕も長いこと選手としていろいろやってきたつもりですし、それなりに形というか戦術についても勉強してきたはずなんですけど、ミラさんの下でコーチになってからは刺激を受ける事ばっかりなんです。日別のトレーニングメニュー構成や、練習の取り組み方などどれも合理的だし「戦術を高めていくには、こういう形でやればええんか」と教わることがホントいっぱいあって、物凄く勉強になるんです』
とコメントしてくれていたが、ディフェンスラインをまとめるだけではなく、攻守の要となる西袋選手の動きやパス回し、そしてそこからゲームを組み立てていく際の連動などを紐解いていくと、そこにはミラ監督の教えにインスパイアされた「岡山流サッカー」という姿が見えてくるし、全体が連動したムービングサッカーを展開するだけではなく、熱い漢(オトコ)岡山らしく『球際で負けるな』という、泥臭いサッカーの教えも徹底されており、昨年までのVONDSとは一味違う装いも見せてくれている。
今は無観客開催ということもあり、たとえ勝利を積み重ねても、会場でサポーターと喜びを分かち合えることはできないが、段階を踏んで有観客試合になった際には「岡山VONDS」の勢いはさらに加速していくかも知れない。
熱い漢、岡山一成が作り上げていくVONDS市原は、なんとも興味深い存在である。
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