台湾人シンガーソングライター PiA吳蓓雅 の魅力について語る
2023年のゴールデンウィーク。2日連続で同じアーティストのライブに行くのは人生初の出来事である。
彼女の楽曲との出会いは、台湾の新北市にある私のお気に入りのホテル。とても綺麗なホテルで景観も良く、MRT駅直結で下層はショッピングモール。買い物にも、食事にも便利で、私が愛してやまない蘆洲廟口夜市(この夜市の東端、蘆洲区中山立体停車場前にある滷味の屋台は本当に絶品で、私はこれを食べる為だけに台湾まで行くことも少なくない)からも徒歩圏内だ。台北の喧騒からも少し離れ、もう数十回訪台し、もはや観光などはすることなく、住むようにして過ごす私にとって都合良く、心地よいホテルなのだ。※ちなみに座って喫煙できる喫煙所も存在する。
当時は新型コロナウィルス発生の遥か前。この新北市のホテルには毎年、10泊ほどはしていた。このホテルはおそらく2012年頃オープンしているはずだが、私が初めて宿泊したのは2014年くらいだったと思う。TBSと日本テレビでの収録を終え、その足で羽田から松山空港への飛行機に乗り込んだことをよく覚えている。
台湾に降り立ち、ホテルに到着した私は、荷物を置いて即、周辺を数時間散策。近くの小吃店をハシゴして破裂しそうな体のまま部屋に戻り、ベッドに倒れ込むと、何気なくテレビのスイッチを入れた。すると、よくあるホテルの館内案内のビデオ(ホテルのテレビ点けると勝手に始まるアレ)が流れたわけだが、バックグランドに流れる音楽、歌声が、疲れた体に心地よい。そのまま眠りについてしまった。
台湾の昼下がり、年に数度の非日常。たった1人のプライベート空間に流れる、優しく穏やかで、少し切ない雰囲気を持つ歌声は、目を覚ましたばかりの私も魅了した。歌詞の内容もわからないが、どこか甘く悩ましげなその楽曲は不思議な魅力を持っていた。滞在中は常にテレビを消す事なく、その一曲を聴き続けた。
日本に帰国後も、あの幸せな心地よさを忘れることはできなかった。誰の声かもわからない。当時の検索エンジンはいまのように高度な検索能力や翻訳能力を持ち合わせて無く、楽曲の詳細を調べることもできなかった。「なんで台湾滞在中に調べておかなかったんだ…」後悔した私は、翌月に再び台湾に渡る。
言葉にできぬほどの心地よさをもう一度体験する為、再び新北市のホテルに戻った私は、チェックインして即テレビのスイッチを入れる。この曲を聞く為に台湾に来たのだ。
テレビを点ける直前には、「あの感覚、もしかしたら海外という非日常空間によるバイアスがかかっていただけかも…」という不安も頭をよぎったが、全くの杞憂であった。曲が耳に入ってきた途端に、あの心地よさが耳から身体中に広がっていく。
「来てよかった」
近いとはいえ海外である。スケジュールを調整して休みを作り、航空券を予約し、海を渡りホテルまで移動する。それなりのハードルはあるが、この曲を聞いた途端に自分の選択が正しかったことを一瞬で確信した。到着したその日は、夜市で好きな食べ物をたくさん外帶し、KAVALANでソーダ割を作り、台湾の美しい夜景を眺めながらじっくりと曲を楽しんだ。
滞在中、この楽曲について調べてみた。どうやらこの曲の名は、「Sweet, Sexy Lover」、歌詞も読む事ができた。想像通り、甘く切ない世界観。歌っているのはPiA樂團というバンド。ようやく楽曲について知ることができた。
そこから、毎年2〜3度、台湾に渡り、"好きな食べ物とお酒を用意してPiAの楽曲が流れるホテルプロモーションビデオを観る" それを目的とした旅が始まった。2018年には、なんと8回も台湾に渡りこのホテルを訪れた。iTunesやYouTubeで聴くのも良いが、やはりこの曲は台湾で聴きたい。そう思っていたのだ。
そして2020年。
新型コロナ騒動が始まる。
台湾への渡航ができない。
この時ようやく気づいたのだ。「なんで生のPiAの歌声を聴きに行かなかったのだ!」二度目の後悔である。しかしながら、コロナ禍では後悔してもどうにもならない。2014年のようにもう一度台湾に行きたくとも、何もできないのだ。
我慢の3年間。コロナが明けるまでは台湾に行くことはできない。いつものあの旅の扉は封じられている。それでも時々PiAはインスタライブなどで、その歌声を聞かせてくれた。それだけが救いだった。
2022年11月。ようやく観光での渡台が可能になった。そこからは3ヶ月連続で台湾、新北市に渡り、食と酒と「Sweet, Sexy Lover」を楽しんだ。
そして…
ある日、何気なくSNSを見ていると、素晴らしい告知を発見。
PiA日本に来るんかい!!
2014年から聴き始めて9年。ようやくPiAのライブを、生の歌声を聴くことができた。
2月のアジアツアーのみならず、GWにも日本でライブを開催。当然、私も繰り返しライブに参戦。
生のPiAの歌声はCDを越える。
実力のあるシンガーは皆そうだ。PiAは2010年デビュー。私はデビュー当時の事を知らないが、いきなり台湾のグラミー賞と言われる金曲獎の最終選考まで残ったらしい。その後はドラマ「我可能不會愛你(イタズラな恋愛白書)」の楽曲で台湾の音楽プラットフォームStreetvoice で年間 R&B ソングチャンピオンを獲得。華々しい実績を残す実力派シンガーソングライターなのだ。
そして、とにかく作曲の幅が広い。引き出しの数が多いと表現すれば良いのだろうか?彼女は独特の音楽スタイルと才能を持っており、ポップ、ロック、フォークなど、幅広い音楽性を持っている。「你讓我相信愛,又讓我放棄相信愛(Bon!Bon!Bon!Bon!Bon!)」のような力強くノリの良い曲調の楽曲から、「とりあえず生!」のような可愛らしい楽曲まで、なんでも作ってしまう。歌詞についても、日常の小さな出来事や感情をシンプルで心に響く形で表現する。また、台湾語、中国語、日本語、さまざまな言語での楽曲を持っている。日本人アーティストにはない独自の世界観だ。
言うまでも無く極めて高い歌唱力で、「津軽海峡冬景色」から宇多田ヒカルの「First Love」まで難しいカバー曲も難なく歌ってしまう。彼女の歌声は独特で、実に柔らかく美しい。癒される声だ。私は音楽理論等は全くわからないが、彼女の声の高音から低音に切り替わる瞬間、低音から高音に切り替わる瞬間、音と音の間にゾクゾクするような気持ちよさがある。それでいて、ギター弾き語りのスタイルで成功してきたにも関わらず、「ギター飽きた」などぶっ飛んだ発言もしてしまう奔放さも有り、ライブ中のMCはとても楽しく、オーディエンスを魅了する。
彼女の魅力を挙げたらキリがない。いくらでも語ることが出来てしまう。今や私のクルマのHDDは彼女の曲でパンパンだ。
彼女の名前はPiA吳蓓雅。現在はソロのシンガーソングライター。必ず、台湾現地でのライブも聴きに行こうと思っている。きっと新たな発見があるはずだ。