さよなら、金魚池
2年通った職場。人間関係や仕事量共に限界ギリギリで、いつ身体を壊しても、心が折れてもおかしくなかった。
でも毎日通った。その道すがらにあったのが、金魚池。赴任した時も、何でこの勤務地になったのか、不満が拭いされないまま初出勤。
バス停から職場に向かう途中に謎の池が…。
「金魚池」何これ?思わずクスッと笑った。こんなに気持ちが沈んでいても、人は笑えるのだ。その名の通り、中には金魚がいた。でも大きさは鯉くらいのものだ。「金魚って呼ぶには大き過ぎ」思わず1人で突っ込む。
それから2年間、毎日金魚池の横を通った。金魚池は花壇の中にあり、花壇には季節ごとに絶え間なく花が咲いていた。花には必ず花の名前が書いた名札が建てられていた。
その花や池をずっと世話をする男性がいた。
いつもタオルを頭に巻いて長靴を履いて、落ち葉をはいていた。
辛いことがあっても、職場に行きたくないと思っても、花と金魚池が私が通るのを待っていてくれた。いや、待ってない。そう思えただけ。
転勤の内示が出た。その帰り道、金魚池を通った。いつもの男性とは、毎日挨拶をしているうちに親しくなり、話をするようになった。
「転勤することになりました。この花壇と金魚池をみられないのは残念です」と言うと、「そう言ってもらえると嬉しいです」と笑顔が返ってきた。
おそるおそる「お名前お伺いしてもよろしいですか」と尋ねた。頭を掻きながら照れくさそうに名前を教えてくれた。
花の名前は知っていても、手入れをしている人の名前は知らなかった。
もっと早く聞いていたら、ちゃんと名前を呼んで挨拶できたのに。
もう、この先ここを通らないだろう。でも、金魚池の名前と一緒にその人の名前は忘れない。毎日私の心を癒してくれた人と場所だから。
さようなら、金魚池。お世話になりました。
桜の花びらの浮かんだ池で、金魚も花見をしていた。
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