診療報酬と国民負担の関係とは?(日本経済新聞 柳瀬和央氏/モーサテNov.2023)
診療報酬マイナス改定"5000円軽減"について、解説する。
診療報酬とは、保健医療を提供した病院や診療所、調剤薬局などが、その対価として受け取るお金の事を指す。
初診料や再診料や入院基本料など、医療行為の品目ごとに厚生労働省が点数を設定しており、医療の公定価格と言う性格がある。
医療機関は、患者に提供した医療行為の点数を積み上げ、1点を10円として総額をはじき、医療費を請求している。
この点数は、2年に1度、厚労省が見直すことになっており、次の改定となる2024年度にどのような見直しをするか、年末に行われる政府予算案編成において、大きな焦点となっている。
ここから、診療報酬と国民負担の関係について解説する。
病院で治療を受けたり、薬局で薬を受け取った患者は、算定された医療費の原則1〜3割を自己負担として受け取る仕組みになっている。
引き上げとなると、今までと同じ治療を受けても、患者の負担が増える。逆に減額改定されると、従来よりも軽くなる。この影響により、一般国民の国保険料負担にも跳ね返り、診療報酬が上がれば医療費の総額が、その分膨らむことになるため、保険料率の引き上げが必要になる。
診療報酬をめぐる動きについて、財務省の他、日本医師会や健康保険の団体など、様々な関係者が政府に意見要望を出している段階である。
医療の団体は、診療報酬のうち、人件費等に当てる本体の大幅な引き上げを求める他、物価高の影響により、光熱水道費子や設備費などは膨らんでいると意見している。
一般産業界では、商品やサービスの価格を引き上げて収支の悪化を防ぐことは可能だが、公定価格である保健医療では、医療機関が自由に価格を見直すことができないため、コスト増により経営が圧迫され、医療従事者の賃上げも出来ず、物価上昇に負けない賃上げを行うためにも、報酬の増額が必要と主張。
一方、財務省は医療側の主張とは反対に、診療報酬の本体部分について、マイナス改定を求めている。
根拠として、診療所の経常利益率は、2020年度の平均3%から22年度には8.8%まで上昇し、利益剰余金も増えている。
そして、診察一件あたりの医療費を見ると、新型コロナ対策の特例措置の影響を除いたとしても、過去3年間の物価上昇率を上回っており、診療所の報酬単価を仮に5.5%程度引き下げても、従事者の賃金を引き上げる事は可能だと主張している。
特に、入院を中心とした病院よりも、外来中心の診療所の利益率が高く、利益剰余金も増えていることから、今回の改定では特に診療所の報酬を下げる必要があると主張。
これに対し、日本医師会は、新型コロナウイルスによる落ち込みが最も酷かった2020年度を基準としたデータを提示し、実態を反映していないと強く反論している。
2023年度の医療費の総額を見ると、48兆円になる見込みであり、2024年度は、高齢者の増加により更に8800億円程度増える見込みであり、政策変更をしなくても、健康保険料の負担は4400億円程度増えると見込まれている。
診療報酬の引き上げは、社会保険料の負担が増える流れを加速させると言う意味合いを持つ。財務省は診療所の報酬単価5.5%を下げることができれば、年収500万円の現役世代の保険料を年間5,000円程度を軽減できると試算している。
昨今は、社会保険料負担は、税負担より注目されていることから、診療報酬の改定は医療の専門的な話に留まらないと考えている。
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