個を取り戻すためのひとつの可能性
「だけど私は、情報の並列化の果てに個を取り戻すための、ひとつの可能性を見つけたわ」
「——ちなみに、その答えは」
「好奇心。たぶんね」
『攻殻機動隊 S.A.C.』#26 公安9課、再び STAND ALONE COMPLEX
告白しよう。
これの、「それから自室に引き篭もって、とにかくこの訳の分からない現状を整理しようとした。そして、寝ても覚めてもいろいろなことを考え続けて、いろいろなことに気が付いていった。」の部分へ、補足する。
本当は、自殺しようとしたのだ。
そして、自殺をするためには、遺書を書かなければならない。
その遺書には、自殺の理由が明確に示されていなければならない。
と考えた。ASDの、強迫的な執着。
そして、死にたいという衝動は存在するが、その理由を自分が明確に把握してないことに気づいた。これでは遺書が書けない。遺書が書けなければ自殺ができない。ならば、理由を解明しなければならない。
少々よろしくない言葉だが、理系馬鹿というか、理屈屋というか。発見した問題は是が非でも解決したいといった類の、ASDの頑ななこだわり、特定の対象への強烈な好奇。
時が経ち、私は遺書ではなく自分史を書き上げ、特急に飛び込まず各停に乗り込み、死へではなくジェンダークリニックへ向かった。
そうして、私の性同一性障害による自殺願望は、私の発達障害が食い止めた。
好奇心は猫をも殺すというが、私の好奇心は私を生かした。
そんなわけで、私は私を気に入っている。
さがを。性別を。性格を。このマイノリティの煮凝りを。
希少で興味深い生物を、四六時中、心の底まで観察できるというこの状況を。
私という存在へ、強烈な好奇を抱いている。
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