流れ星を拾ったら⑨
僕は自分の部屋に戻りルネとの対話を試みたが、駄目だった。ルネは言葉をしゃべらない。どう見てもごく普通の猫にしか見えない。
青い卵から生まれたと思ったあれは酔っぱらった夜の夢だったんじゃないか。そもそも、この状態が夢の続きなのではないか。もしも夢なら。このまま見続けてもいいかな、と僕は思った。
僕のベッドで丸くなっていたルネは尻尾をパタンパタンと布団に打ち付けている。ネットで調べて知ったのだが、これはいらいらしている様子らしい。
眠たそうにしているルネを撫でながら、僕は先ほどの会話を思い出していた。最後に一つ、どうしても気になることがあったので訊ねてみた。
「僕が身代わりになるとして。本来の罪人は恩赦されてそれで終わりなのかな」
カズさんはどうやらフィナンシェ好きらしい、3つ目を取って食べながらずいぶんとリラックスした様子で教えてくれた。
「ああ、それね。確かに気になるよね。でも本当にこんなケースはまれなことなんだ。滅多に起きない、というより起きてはいけないことなんだよ。でも、起きてしまった。僕らも本当にびっくりしているんだ。恩赦されたらそれで終わり。そういうものだ。」
それってちょっとずるいな、と僕は思った。運命のいたずらで恩赦が可能なら、罪から逃れることが出来るということじゃないか。おそらくそんなことが出来ないように鉄壁のルールやらシステムやらがあるんだろうけれども。
僕は、どんなことをしようかな。どんなことをしたら償いになるんだろう。
部屋に戻った僕は、ルネに導いてもらおうと、何度も何度もルネに話しかけた。どれだけ話しかけてもルネは喋らないので、僕は半ばあきらめたような気持ちになった。
それからは、罪やら償いやらを考える毎日だった。
毎日送られてくる会社からのメールを確認してタスクを処理して、ちょっとおせっかいな新人教育なんかをしてみたりして、なんとなく日にちが過ぎていく。
僕は自分に罪がないけど、身内の誰かの罪を引き受けて服役するというように考えると何をしたらいいのかわからないという結論に達した。
ということは。
僕の中に何かしらの罪を探さなければならないのではないか、という思いが芽生えてきた。
「ねぇ、ルネ。お前は僕を導いてくれるんじゃなかったのかい。」
撫でても撫でてもルネは眠たそうにしているばかり。時々はじゃれて遊んだりするものの、僕を導いてくれるような気持ちは全くないように見える。
「恩赦ってさ、ちょっとずるいと思わないかい。」
そう言うと、ルネは大きな目を見開いて僕を見た。僕は速読や先読みといった他の人が持っていない不思議な力を持っている。この力のことは、母親にも双子の妹にも知らせず、こっそりひっそり使っていた。
この力は他の人が持っていない、特別なものだと知っていて、自分の人生を楽に生きるため、母親の言いつけを守るためにその力を使ってきた。
それって、僕はずるい人生を送ってきた、ということになるのかな。それって罪になるのかな。
続く
流れ星を拾ったら① 流れ星は青い卵
流れ星を拾ったら② 引っ越そうと決意
流れ星を拾ったら③ 猫と引っ越し
流れ星を拾ったら④ 猫専用マンションへようこそ
流れ星を拾ったら⑤ 猫の名前はルネ
流れ星を拾ったら⑥ 僕の特技は速読
流れ星を拾ったら⑦ 運命のいたずら