流れ星を拾ったら⑩
僕には何か特別な技術で何かを作り出すようなことはできない。でも、今の僕のように宇宙人ではないのに、ひょんなことで地球人の意識のままでこの監獄に入ってくる人がこの後、いないとは言い切れない。
その人のために、僕の体験談を書こう。
僕がどんなことに戸惑い、どうやって罪を認め、どのように誰か役に立つことで償いをしようと考えたのかを記しておこう。
そして、ここの住人の罪と贖罪の日々を書こう。前の302号室の住人はみんなの肖像画を描いた画家だというから、それなら僕は、みんなの生きざまを描くジャーナリストになろう。
僕は次の日、ルネを抱いてカズさんと中庭で落ち合った。決意を告げるとカズさんは微笑んで「すばらしい」と言ってくれた。
「それでは君を正式に僕らアローカナ監獄の囚人として受け入れるよ。今日から君をマモルと呼ぼう。僕らは仲間だ。いつかここを出ていく新しい生まれ変わりの日まで、共に服役を楽しもう。」
今夜、中庭では月夜のお祭りが催される。
踊ったり歌ったりして飲み明かすクレイジーな夜になるらしい。
こんな監獄があるだろうか。
目立ってはいけない、そういわれ続けてひっそりと生きてきたつもりだったけど、僕は本当はそれがすごく嫌だった。
目立ちたいというわけではない。ただ、自由を禁じられていたことが嫌だったのだ。でもそれを口にすることも態度に表すこともできなかった。
なぜならいい子でいたかったから。
いい子でいることに価値はあるんだろうか。今の僕はその問いにはノーと答えたい。
僕は自分の感情や意見を心の中に押し込めて、速読の力でたくさんの知識を得ることで満足を得ていた。知識の過食症だったと言えるかもしれない。
僕はいい子でいることで他人の期待に応えることばかりを考えて、ちっとも自分を大切にしなかった。
僕は今夜、監獄アローカナの中庭で、生まれ変わろう。白井からマモルへ。
服役を楽しむって、そんなこと考えたこともなかった。でも、そんな世界がここにある。それに出会えたってすごいことだよね。
僕の膝でルネがニャーと鳴いた。君は一言も話さずに僕を導いてくれたんだね、ありがとう。ルネ。
完
流れ星を拾ったら① 流れ星は青い卵
流れ星を拾ったら② 引っ越そうと決意
流れ星を拾ったら③ 猫と引っ越し
流れ星を拾ったら④ 猫専用マンションへようこそ
流れ星を拾ったら⑤ 猫の名前はルネ
流れ星を拾ったら⑥ 僕の特技は速読
流れ星を拾ったら⑦ 運命のいたずら