【アニラジ今昔2】「魔神英雄伝ワタル3」とアニラジ番組の定着と
「魔神英雄伝ワタル」は1998年から日本テレビ系列で放送されたアニメで、普通の小学生だった戦部ワタルが異世界に召喚されて、出会った仲間たちと冒険を繰り広げるという、今でいう「異世界召喚モノ」の日本における中興の祖(※1)となる作品です。1991年には2が放送され、1997年にはさらなる続編として「超魔神英雄伝ワタル」、2020年にはWebアニメ「魔神英雄伝ワタル 七魂の龍神丸」が放送されるなど、幅広い世代にわたって人気を博しています。
ワタル1と2は、関東地方では金曜夕方5時からの放送ということもあって、小学生の間で話題になることも多く、当時小学生だった自分も翌日には友達とワタルの話題で盛り上がっていました。そんな中、2の終了から半年経とうかという時に仲間の一人が妙なことを言い出したのです。
「ワタルがラジオで始まった」
……正直言って、当時は「アニメなのに、ラジオなんて絵がないじゃん」とよく分かりませんでした。でも、その友達が「これに書かれてた」と持って来た新聞のラジオ欄には、確かに21時から「魔神英雄伝ワタル3」の文字が。左隣にはTBSラジオの番組欄で、右隣にはニッポン放送の番組欄。確かに、間違いなくラジオでワタルの続編が始まっているじゃありませんか。
次の日曜、ワクワクしながらポケットラジオをつけて待っていると、「魔神英雄伝ワタル3」のタイトルコールが。さあ始まった! ……と、思っていたら、なぜか始まる女性2人のおしゃべり。どこか聞き覚えのある声をしばらく聴くうちに、この二人がワタル役の田中真弓さんと、虎王役の伊倉一恵さんということが分かってきました。
日常の挨拶から始まり、話題も日常のこと。困惑しているうちにCM が入って、その次に聞こえてきたのはとてもよく知っている歌声だけど、全く知らない曲。ワタル1のテレビシリーズで主題歌を歌っていたa・chi-a・chiによる新しいオープニングテーマ「POWER」から、ワタルのラジオドラマは始まったのでした。やはり最初は声だけということに戸惑っていたものの、不思議なことに、聴いているうちにワタルたちが元気にやりとりしている映像が頭の中で湧いて出てくるのです。
物語は、まさにワタル2の続き。星界山での旅を終えて日本(現世界)へ戻ったワタルが、今度は浮遊界という世界の危機を救うために旅立つというストーリーで、当時ワタル2が終わってその後の物語を渇望し、同人誌にまで手を染め始めた自分にとっては、これ以上ない公式からの供給でした。
さらに、最初は「なんだこれ」と思っていたトークパートが、回数を重ねることにつれてだんだん楽しくなっていったのです。1991年当時、声優という職業はまだクローズアップされていなくて、声優さんによるトーク番組もごくごく僅か。そんな中、トークパートでは声優さんたちの日常や仕事に関するフリートーク、ドラマパートでは少年たちの物語というギャップが生まれ、声優さんという職業の凄さを実感することができたのです。
このトークとラジオドラマの2部構成は様々なアニラジ番組でも取り入れられ、ラジオドラマに出演した声優さんがトークパートを担当するのもお決まりに。田中さんと伊倉さんは、ワタル3が終了した後もトーク番組の「フケてこんばんにゃ!」(※2)と「アニメチック600秒」(※3)を担当し、さらに「魔神英雄伝ワタル3 虎王伝説」(※4)「魔神英雄伝ワタル4」(※5)へと続いていったのでした。
また、ラジオドラマシリーズはビクター音楽産業(現・ビクターエンタテインメント フライングドッグ)によって「ラジメーション」として展開が始まり、文化放送にとどまらず様々な作品を様々な局で放送されていくようになります。こちらは次回、ラジメーションとラジオドラマとして触れていきたいと思います。
1991年のこの時には想像もしていなかったことではありますが「魔神英雄伝ワタル3」は放送されてから30年以上、長々と続いていくアニラジの礎となっていった番組なのでした。
※1 日本の異世界召喚モノでは、これより前に「聖戦士ダンバイン」が放送されていて、世界的には「ナルニア国ものがたり」も有名なところかと。
※2 ワタル3がプロ野球のナイターオフ番組で午後9時だったのが、ナイター期間に入ったため毎週日曜日の午後11時へと移動。以降のワタル関連のラジオ番組も、基本的に深夜の時間帯で放送されていました。
※3 当時文化放送で放送されていた夜ワイド番組「サスケの夜はこんびんば!」の10分間内包番組。月曜日から金曜日まで放送されていたので、土曜日以外は田中さんと伊倉さんの声を聴くことができたのでした。
※4 井内秀治氏が角川スニーカー文庫で上梓したライトノベル「虎王伝説」(全3巻)が原作のラジオドラマ。ワタルが中学生になって、ライバルであり親友でもあった虎王と旅に出る物語で、厳密には3とは関係がなく、直接的には1もしくは2のアフターストーリーのような形になっています。
※5 ワタル「4」とは銘打っているものの、実際にはワタルとメインキャラひとりずつが毎月テーマを変えて物語が進行していく、番外編的でコミカルな展開が多いオムニバス作品。おそらく同時進行でシリアスなOVA「魔神英雄伝ワタル 終わりなき時の物語」(全3巻)が展開されていたため、差別化が図られたのだと思われます。
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