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受け月
※季節外れなのですが、日本へやって来た都とミケーレが夏祭りに行くお話の一部でした。下駄の靴擦れで歩けなくなった都を運ぶミケーレです。
朗読版: https://note.mu/m_medium/n/nbca255e6c578
まだ熟れていない、青い果実のような浅い闇に、涼やかな白い三日月が姿を見せている。
澄んだ薄い蒼に、儚げなその細い白はまた、どこか鋭角的に光っていた。
どこからともなく祭囃子が聴こえてくる。夏の宵に沈む社殿の足下からこちらまで、賑やかな通りがまっすぐに浮かび上がっていた。石畳の両側にひしめく屋台。
浴衣姿の人々と行きあう。観世水に縞あやめ、網に千鳥、波に若鮎、鳳凰に花桐…。
柄も色も、なんとも目に風流だ。
都を抱き上げたミケーレは境内への道を向かった。闇の中にともる白い花が燈籠のように社殿をほの明るく囲む。
「ご存知ですか? 夜顔は月光花とも呼ぶのですよ」
「そうなんだ。きれいな名前…」
夏の浅い闇にやさしく開く花は、おぼろな月明かりにも似ていたけれど。
今日の空に輝く三日月は、もっと鋭くさやかだった。
「今夜は月もすごくきれいだね」
「うん? ああ…あれは『受け月』ですね」
「受け月?」
ざらついた頬に、自分の頬を擦り寄せるようにして都は訊いた。
「願いを受け止めて、叶えてくれる月です。私にとってのあなたのようなものですね。…何か願い事があるなら、してみるとよいでしょう」
ミケーレの腕に揺られながら、都は清冽な光を放つ三日月を仰いだ。
あなたが『受け月』と呼んだ月。
けれど都は沈黙を守る。
私の願いはあなたがいてくれれば、すでに叶っているから。