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The Tower of Babel
可愛い、とか綺麗だ、とか美しい、とかの褒め言葉を、ミケーレは私にだけものすごい頻発する。あいさつかというくらい。
ミケーレはごく自然にそれを言うのに、その言葉にはどれにもてのひらに乗せてしまえるほどはっきりした実感がこもっている。
そしてその言葉はまるきり「愛している」に聞こえる。色使いやタッチをかえた、単純な告白のように。
ミケーレがそういう魔法を使えることを、私はちゃんと知っているのだ。
「都」
あなたにしかできない私の名前のよびかたに、本当に私は弱い。
あなたはどうしてそんなに大切そうに、愛おしそうに、私の名前を音にするんだろう。
世界で一番みじかい、美しい音楽みたいに。
「都」
ミケーレは饒舌だ。
指で語り、眸で語り、もし私と彼とのあいだに共通の言語がなくなっても(バベルの人々のように)、私たちは言葉以外のすべてで心を通わせることができるだろう。交わす眸や互いに触れ合う唇や、呼吸の温度や鼓動の速さで。
例え情報の伝達手段が一つ残らず遮断されても、私とミケーレはなんとかして繋がろうとするだろう。そして繋がりつづけたいと願う気持ちだけで、私たちは繋がっていることができるはずだ。
――あなたは冬にも似た深い沈黙を、その身にまとうのに。
私は多分これから先ずっと、この想いを棄てることはできないだろう。谷底に物を落としてしまったように、それはもう取り返しがつかない感情だった。
大好きだよ。
愛してる。
Ti Amo.
この気持ちの変換候補のいちばんはじめにくる、使用頻度が一気に上がった言葉たちは5つの音節で揃う。
5つの音を揃えて差し出せば、彼から抱擁のお返しがくる。
MiyakoとMichele。
互いに交わす名の綴りには、あなたと重なるI(アイ)がふたつ。
あなたの纏う衣の色、私があなたに募らせる想い、あなたが私を抱く情熱、互いの姿を映し込むふたつずつの球体、愛しさと表裏一体の切なさ、あなたと私。
私の好きを残らず詰め込んだ集大成がミケーレだ。
わたしとあなたが互いに相持つふたつの音韻を、いちばん早く届くあなたへの想いを、私は肌に色を乗せるように、この心にうつしとる。