【5分で読む】今年のJリーグはビジネスを学ぶ「最高の環境」である。
皆さん、こんにちは。神村です。
前回はJクラブの経営と資本や地域密着のあり方について語ってきました。
今回は新シーズンが幕を開けた今、皆さんがJリーグの試合を観てチームを応援するだけでなく、ビジネス視点で捉え、考えるためのコツやヒントを探りたいと思います。
(本稿は「Off the pitch talk 」第57~60回の放送内容のまとめです。今回はインタビュー小出さん、文責:神田さんでお届けします)
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#57 : https://stand.fm/episodes/603cafd70ec0631b06690bb6
#58 : https://stand.fm/episodes/603f557f0ec0638ef26944ce
#59 : https://stand.fm/episodes/604203d952e33e32880d5daa
#60 : https://stand.fm/episodes/6043610d52e33e06310d79c2
2021シーズンの見どころ
皆さんが普段Jリーグの試合を観る中で気にするのは、応援するチームの勝敗や、昇格・降格といった試合の結果だと思います。
一方で、スポーツビジネスの観点では「フロントが今シーズンどのようなアクションを起こすのか?」についてもっと関心を寄せると、「事例収集・勉強・分析」にとても役立ちます。主な見所は以下の3点です。
①:去年の経験をどのように活かしているのか
②:「仕方ないねの2020年」から、「ここまでやるの2021年」へ
③:お客さん(ファン・サポーター)の行動変容
まず、①:去年の経験をどのように活かすのかについてです。各クラブのフロントスタッフはコロナ感染拡大が続く中で、2021シーズンに向けたビジネスアイデアの議論・検討を重ねてきました。今シーズンの変化で言うと、既にいくつかのクラブではシーズンシートを止めています。シーズンシートは、これまで売上を先行して立たせる(キャッシュをいち早く確保する)意味で絶対的な重要課題でした。あるクラブの関係者の話では、昨年夏ごろからシーズンシートを止めるべきかの議論をし、結果的にクラブ収益モデルの前提を壊す意思決定をしたことに侃々諤々だったそうです。また、スタジアムの空間づくりの一環で多くのクラブがボードや音響を入れましたが、今シーズンも続けるのか?、スタジアム内の飲食店をどれだけ営業させるのか?等についても施策検討が必要です。昨シーズンは全クラブが足並みを揃えるかのように施策内容も同じケースが多かったのですが、今シーズンは各クラブが考え抜いたアイディアのお披露目の場になると考えています。それを見るには、まさにもってこいのシーズンです。
次に、②:「仕方ないねの2020年」から、「ここまでやるの2021年」についてです。以前の投稿でも触れましたが、昨年はJクラブに限らず多くの企業がコロナの打撃を受け、業績が落ち込むなど多大な影響を及ぼしました。しかし、今年は昨年得た経験や知恵を活かすことが前提となるので、企業は少なくとも昨年以上にビジネス上の結果が求められます。我々Jクラブにとって最も大切なのは、紛れもなく安全対策の徹底度合いです。安全・安心を発信してファンの不安を取り除かなければ、スタジアムに来てくれません。Jリーグや国の規定を遵守しながらも、クラブとして独自の基準を設けて積極的に発信をしていくべきだと考えています。それでも、コロナ以前の観客水準に戻すことは恐らく難しいので、デジタルコンテンツをはじめとするマネタイズも重要課題になります。ただ、昨年も投げ銭をはじめ新しいビジネスが話題になった時期もありましたが、まだまだあまり普及していません。今後の改善・進化が期待されます。良いコンテンツを作るためには当然コストがかかります。YouTubeなどの動画コンテンツは基本的に無料ですが、それらを有料化して、いかに売上・利益を立てていくべきか?などの経営判断はクラブで分かれると思います。単なる話題性に留まらない、ビジネス観点での成功 / 失敗がクラブごとに出るのはとても勉強になるので、皆さんもよく観察してみてください。
そして、③:お客さん(ファン・サポーター)の行動変容についてです。これも以前の投稿にある通り、コロナの影響でスタジアムに来なくなったファンは少なからずいます。仮にコロナの感染拡大が収束し、スタジアムの人数制限も解除されたとして、果たして彼らは以前のようにスタジアムに来てくれるのでしょうか。少なくとも、スタジアムに来ても声を出して応援できない今の環境下では「ネット観戦の方が良いかも」、「友達を誘っていくのは気が引けるなぁ…」と思うサッカーファンも多いでしょう。フロントスタッフはスタジアムに来る人以外にも目を向け、よく観察しなければいけません。さらに、グッズの販売戦略も検討が必要です。これまでは、スタジアムへ足を運び応援する目的で、クラブのタオルマフラーやユニフォーム買ってくださるファンが多くいました。しかし、スタジアムに行くファンが減っている今、既存商品だけで十分な収益を得るのは難しいでしょう。ですから、ファンはどんなグッズなら買ってくれるのか、改めて見直すことが大切です。各クラブはスタジアムに来てくれるファンを増やすと同時に、各ファンの観戦スタイルや消費行動に適応したビジネス施策を実行することの両立が大切になってきます。こちらも②同様、成功と失敗の事例が出るので、併せて観察すると良いでしょう。
DeNAのJクラブ参入
少し話が逸れますが、先日 DeNA が SC相模原に経営参画するニュースが話題になりました。今後どのようにスポンサーを獲得していき(資金を集め)、どのような資本政策を打つのか注目している人も多いのではないでしょうか。 ご存知の通り、DeNAは野球やバスケのチームにも既に参入しており、スポーツビジネスの成功事例としてメディアなどにも数多く取り上げられるほどの実績があります。今や横浜ベイスターズは、”横浜”という一地域に限定されず、ファンが全国にいる球団になりました。これは前回の投稿で取り上げた「地域密着とマーケット拡大の両立」を体現していると言えます。経営 / 資本政策は本来このようにあるべきです。
他にもJ2にはサイバーエージェントが資本参画するFC町田ゼルビアがあります。町田も相模原も首都圏に位置しますが、だからといって「首都圏クラブはIT企業が経営していて凄いな」と地方クラブが遠巻きに見ていたら、首都圏と地方の差はますます広がってしまいます。資本政策は経営における大きな課題であり、「スポーツクラブで働きたい人」はもちろん、一般企業で働く方々にとっても外せない重要問題なのです。
モンテディオ山形の取組み
最後に、モンテディオの今シーズンの取組を少し話します。
今シーズンは「徹底的にやる」をテーマに3つの軸で活動する予定です。
一つ目は、全てのホームゲームで SDGs に関するイベントを実施し、サッカー以外の領域でも積極的に発信をしていきます。ありがたいことに、昨シーズンまでの取組を通じて多くの方に共感いただき、ボランティアの学生や個人からも様々お問い合わせ頂けるようになりました。これを可能な限りスタジアムで具現化し、 世の中の人たちに発信をしていきたいと考えています。本活動は直接的な収益には結びつかないかもしれませんが、中長期的にはクラブのブランド・価値向上に繋がると確信しています。
二つ目は、 季節を味わい、自然を感じるイベントの企画です。(これらは、まだ山形で四季を経験していない私が個人的に参加・体験してみたい企画でもあります。(笑)) モンテディオのホームスタジアム周辺は、四季折々の空気と共にとても美しい光景を見ることができます(秋の紅葉、冬の真っ白な雪化粧など)。例えば試合の後、ピッチで満天の星空を見ながらキャンプをしたり、森林公園があるので昆虫採集をするのも楽しいかもしれません。いずれにせよ、親子・カップルなど様々な方を対象とした企画を進めています。
三つ目は、デジタルコンテンツの充実化です。モンテディオは新しい観戦形態に合わせた収益構造の確立に挑戦します。 具体的には、ファンがオンライン観戦でも喜んでいただけるような新しいコンテンツを企画しています。野球でも、副音声では歴代の名選手が解説するなどファンが喜ぶ工夫が盛り込まれているので、他競技からも良い点は取り入れたいです。
これらの施策は、クラブのファン層拡大や収益のためであることは当然ですが、スポーツ全体を更に盛り上げていくためにモンテディオは徹底的に挑戦していきたいと考えています。
まとめ:ビジネスは現場で起きている
ここまで、今シーズンの Jリーグの見所ついてビジネス観点で語ってきました。ご紹介してきた施策の多くは、各クラブのスタジアムを訪れることで直接体感できるものです。また、オンラインのビジネス施策にせよ、実際に試してみる(例:グッズをオンラインで買ってみる)ことで学べるものがきっとあります。昨年色々と試行錯誤した分、今年はより成果にコミットするという意味では、皆さんにとってスポーツビジネスの極意・真髄を学べる最高のチャンスでもあるのです。ぜひ積極的に現地(スタジアム)を訪れ、自分の目で確かめてみてください。今年も一緒にスポーツ界を盛り上げていきましょう!
(文責:神田)