社会人が予備試験に受かる方法①
1 社会人受験生は論文に弱い
まずは、令和3年のものですが、試験結果を見てみましょうか。
【大学生】
①受験者3508人 ②短答合格者733人 ③論文合格者255人
②/①→20.9% ③/②→34.8%
【ロー生】
①受験者1058人 ②短答合格者267人 ③論文合格者101人
②/①→25.2% ③/②→37.8%
【それ以外】≒「社会人」としますね
①受験者7151人 ②短答合格者1723人 ③論文合格者123人
②/①→24.1% ③/②→7.1%
短答に合格した社会人の論文合格率「7.1%」が突出して低いですね。
※この記事では、【それ以外】は、非大学生及び非ロー生であり、フルタイムで働いている方を想定しています。
2 社会人受験生はなぜ論文に弱い?
でも、社会人受験生の短答合格率は、特に低くないですよね。
短答は問題文の記述と自己の記憶との照合のみで正解を導びきやすい試験であるため、繰り返し勉強して記憶を正確にしていけば、合格レベルに到達しやすいものです。確かに、社会人が勉強1年目で短答試験に合格することはかなり難しいですが、2年目以降の(連続・継続)合格は珍しくないです。
さて、そうすると、社会人も、記憶を正確にするのに必要なくらいの勉強は、少なくとも「大学生」に負けない程度にできているということです。時間のやり繰り等、大学生とは異なる大きな苦労があるものの、結果として、短答では互角以上の成果を出しています。
では、なぜ、社会人受験生は、論文に合格しづらいのか。私自身の経験も踏まえながら、思い当たる理由を挙げていきたいと思います。
①論文試験直前期に勉強時間が取れない
短答試験日から論文試験日まで約2カ月弱ありますが、仕事をしていると、ここで毎日10時間以上の勉強をすることはできません。でも、大学生はできちゃいます。競馬に例えるなら、大学生は、第4コーナー・最終コーナーからまくってくるんです。
社会人は、まくられる立場にあります。前提として先頭を走っていないといけません。まくられてなんぼです。そして、まくられてもまくられても、逃げ切ってゴールする。これが社会人受験生の戦い方の基本になります。(どのように、逃げ切るかは、また別の機会に書きたいと思います。)
大雑把なイメージとして、社会人は、短答試験日の時点で、論文合格レベルにいることが必要になります。
②短答試験どまりの勉強をしている
予備試験の論文試験に合格するために必要な「技能」は、「事実に法を適用して結論を出せること及びその結論・プロセスを説明できること」です。
でも、短答試験では、例えば、条文の一部や判例の一部を少し変えることで「誤り」にした記述が出題されて、その誤りを見付けられたら正解となるといった問題がありますよね。短答試験の問題の多くは、「法律」自体に関する知識確認にとどまりますから、論文合格に必要な技能の有無を試していないです。そのため、論文合格に必要な技能を普段から意識せずに、短答問題を繰り返し解いていても、その時間は、論文合格に必要な技能の向上にはあまり結び付いていないように思われます。
なお、法律の勉強の際、「典型例で押さえよう」と言われると思います。この条文はこういうシーンで使われるものだ、というように、法律知識と具体例とをセットで押さえることは大切です。でも、ここで気を付けたいのは、それが「事実に法を適用して結論を出」すことにつながっているかどうかということです。ある法律知識とそれが適用される典型例とをセットで記憶していても、実際に、その典型例で、法律がどのように適用されるか(どの事実がどの法律要件をどのように充足するか)という思考訓練がされていない場合、やはり短答試験どまりの勉強となってしまいます。
③評価される答案のイメージができていない
例えば、法律解釈論が答案のメイン要素になっている答案は、評価されづらい傾向にあるといえます。まず、事前に準備した法律解釈論を詳しく丁寧に書いて、いわゆる当てはめでも、問題文の事実の摘示が少ない答案は評価されづらいです。
でも、日ごろから手堅い勉強をしている方、知らないことや間違ったことを書く可能性を排除したい慎重な方は、知らず知らずのうちに、こういった答案になってしまうのかなと思います。本人としては守りの答案が書けた感触を得ていても、論文試験で試されるのは「事実に法を適用して結論を出」す技能であり「法」の知識の有無だけではないため、この技能全体を答案で表現しようとした答案との比較では、相対的に評価は下がり、結果、守れていないことになってしまします。
(なお、事実の摘示だけでなく、事実の意味づけ・評価までできるのが理想ですが、まずは、事実の摘示を答案上でしっかりするのが優先と思います。)
④答案を(時間を計って)手書きで書いたことが(少)ない
可処分時間が少ない中、自らを律してたくさん答案を書いている社会人の方がいる反面、論文を書いた経験がまだまだ少ない方もいると思います。これは、論文を書く練習は知識がもう少しついてからにしようといった慎重な方が多いところに理由がありそうですが、法適用の思考訓練は、知識の少ない状態でも始められますし、短答問題を素材に独学で行うことも初めは難しいです。ですので、是非とも、論文問題を解いて、答案を書く、という勉強の頻度を早くから高めてもらいたいです。
(答案をたくさん書いているのに伸び悩んでいる方の対策は、パターン別になります。別の機会に書きたいと思います。)
⑤体力がない・筆力がない(泣)
ここは、けっこう切実な方もいるかと思います。
筆力がないと、摘示できた事実も少ないということになりかねません。うまく要約したり、文章力でカバーしたりといった方法で少ない文字数で的確な表現をできるように努力することが考えられますが、普段から、手を動かして書くための神経回路をキープしておくこともやはり大切です。
(なお、筆力の有無は、予備試験よりも、試験時間・問題文が長くて答案の分量も多い司法試験のほうで顕著に現れます。)
他にもあるぞ!というご意見があるかもしれませんが、この辺りが大きな理由になってくるため、その対策が必要になると思います。
3 社会人受験生の逆襲
弁護士は、社会の紛争解決(のお手伝い)をする仕事ですが、その際、1年目から様々なバックグラウンドのある方と直接関わります。
逆からいうと、例えば、いろいろな社会経験をして紆余曲折を経たことや学生時代は優秀ではなかったけれど努力して成長したこと等が、弁護士になるとすぐに役立ちます。
そのため、小・中・高・大とずっとエリート街道を進んできた弁護士も頼もしいですが、様々なバックグラウンドを持つ社会人受験生の合格者がもう少し増えることは、紛争を抱える方のためにもなると思います。
今後も、社会人の受験サポートを念頭にして役に立つのでは?と思うことを書いていきたいと考えています(きっとそれ以外も書きますが…)。上記した社会人受験生の論文不合格要因の解消も試みたいと思います。
とにかく、社会人受験生の逆襲を願ってやまないです。
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