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V.A. 『音の宇宙模型』

Various Artists『音の宇宙模型 Sound Cosmodel』 (Super Fuji Discs –  FJSP-148) ライナーノート 2011年 

*1984年にペヨトル工房とスケーティング・ペアーズから発表されたコンピレーション・アルバムのCD再発盤。EP-4の佐藤薫によって12ヶ国から集められた、50組のアーティストの作品を収録した。レコードに付属したブックレットがCDにもミニチュア版で付随しており、恐れ多くも中沢新一のオリジナル解説とあわせて掲載された。現在廃盤のため、ここに掲載する。

ホルヘ・ルイス・ボルヘスが「バベルの図書館」で描いた「宇宙」と称される図書館は、無限であり、あらゆる言語で表現可能なものすべてが含まれているとされる。では、音によって表現可能なものすべてが含まれる宇宙とは一体どのようなものになるだろう。『音の宇宙模型』というタイトルからは、そんなことを思わされる。
この、50人(組)のアーティストが長さ一分の作品を提供したオムニバス・アルバムは、マルセル・デュシャンが、自分の過去の主要な作品をミニチュア化して、持ち運びのできる美術館としてトランクに収めてしまったように、「模型」「箱庭」「小宇宙」といった言葉によって形容される。そのタイトルが仄めかすように、音を収めた標本箱さながら、50の一分間の小宇宙によって構成されたコレクションである。整然と並べられた一分間の小宇宙が、統一体としての「宇宙」を構成し、星雲のごとき円盤に刻み込まれている。しかし、ここに集められている50の一分間は、全体の部分としての断片ではなく、一分という時間に凝縮された濃縮音楽(Condensed Music)とも言えるだろう。どのようにしてこの50の小宇宙が選ばれ、並べられたのか、ということに興味がわく。はたして、それは無限のヴァリエーションから切り取られた、ある組み合わせの一部と考えられる。50という数さえ、レコードの収録時間の限界という、技術的な制約以外に理由はないかもしれない。

同時期に同様の傾向をもつ作品として、モーガン・フィッシャーによる『Miniatures』やレジデンツの『The Commercial Album』(ともに1980年)が発表されているのも、なにか同時代的な兆候というべきだろうか。前者はオムニバスであり、後者は単独アーティストによる作品であるから、その両者には性質の違いがあるが、一曲の長さが一分である、という条件を与えられていることは共通している。
オリジナルのアナログ・ディスクには、解説とともに各参加者のポストカードが印刷されたブックレットが付属していた。それは、この作品を制作したスケーティング・ペアーズがカセット・レーベルであったことと関係があるかもしれない。ノイズ・ミュージックにおけるメール・アートとの関係性や、発表当時のメディア・ミックスの方法論がさまざまに模索された時代を思い出させる。現在ならば、シャッフル、ランダム再生機能を使って、異なる曲順で再生することによって、膨大な数の「宇宙」の楽しみ方を発見することができるだろう。

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