嫌なことを頑張れたなら~乗り越えるには時には甘さも必要~
特技・もしくは一発芸披露大会。
そんなものが、小学校・中学校時代に存在した覚えがないだろうか。
全校生徒や同学年生徒の前で披露する、あれである。
ピアノを習っている子は、華麗なピアノ曲を披露していた。
縄跳びで二重あや飛びができる子は、縄跳びを披露していた。
中学では、文化祭のときに得意なカラオケでMr.Childrenさんのコピーをしていた人もいた。完璧に歌っていて、歌い始めで黄色い歓声が沸いていた。
そんな特技(なんでもいいよ)披露大会が、我が家の長男にも降りかかってきた。
なんと、全員絶対披露、の大会らしい。
聞いた時、
何かの間違いでは?
と思ったほどだ。
普通、特技もしくは一芸披露大会なるものは、「挙手制」でやりたい人だけがやるものではなかっただろうか。
家ではおバカなことや意外と上手な歌を披露している長男。
何か面白そう、とワクワクするかと思ったが、
「無理。」
だったらしい。
人前で何かをするのは得意ではないようだ。
さすがは『陰キャ』な夫と『HSP』な私の血を引いた子供だ。
ものすごい勢いで、愚痴り始めた。
「あー最悪。なんでやらなくちゃいけないの。ほんとだるい。あーだるすぎ。ほんと最悪。その日休みたい。もう最悪。休みたい。なんで先生こんなのやれっていうの。勉強頑張ったご褒美って遊びとかじゃないの。これじゃ罰じゃん。ほんと無理」
聞くに堪えない愚痴のオンパレード。
「だるい」「最悪」「無理」「休みたい」等など、耳障りな言葉がどんどんあふれ出てくる。
でも確かに、「絶対参加の一芸披露発表会」なんて、”一年間勉強がんばったね”のご褒美に全然なっていませんよ先生。
普段の私だったら、
「うるさーーーーい!!!!!
やらなくちゃいけないんだから黙ってやっとけ!!!」
と怒鳴ったであろうダルダルの愚痴。
がしかし。
思い返してみれば、
私だって、大勢の前に出て何かをすることが苦手な子供だった。
クラス全員や、部活の仲間全員で何かをすることは大丈夫だった。緊張するけれど、”披露するみんな”の中の一人だから大丈夫だったのだ。
けれど、クラスもしくは学年の前で何かをしなくてはならないとなったとき、私なら、どうしただろう。
無理。
この一言に尽きる。
みんなの前でバカやって笑わせることが得意な人や、習い事で人より数倍上手にできる特技がある人なら、それを披露できるだろう。
だが私には無理。
みんなの視線が一斉に集まって、身が縮むような気になる。
二の腕の外側に何万匹もの虫が這いまわっているような、かきむしりたくなるような嫌な感覚が生じるのだ。嘘ではない。
大人になった今でも変わらない。
幼稚園のお誕生日会に参加することだって初めの頃は憂鬱だった。
むしろ未だに授業参観に行くことさえ嫌なのに。
同じだ。私が息子だったら、絶対に愚痴りまくっている。
むしろ愚痴るどころかこの世の終わりかと思うくらい暗くなって泣きたくなる。
今の長男も、同じ気持ちだろう。
「お母さんもさー、長男君のその気持ちすっごいよくわかるよ。
そんな人前でやれなんて、絶対嫌だった」
長男の表情が少し和らいだ。暗かった目が、少し見開いている。
「お父さんにも聞いてみたら?きっと同じこと言うよ」
「だよね、嫌だよね」
「めちゃくちゃ嫌だよ」
「お母さんは何やったの?」
「そういうの無かった。やりたい人だけか、みんなで一緒にやるっていう感じ」
「いいな~」
そうなるよな、うん、一人は嫌だよな。
「縄跳びにしようかな」
「縄跳びかー、誰か一緒にやる人いないの?」
「いない。クラスに友達いないし」
出た根暗発言。
時々話す人や遊ぶ人はいるのに「友達」はいないという発言。
仕方ないかもしれないが、切ない。
またぶつぶつとつぶやき始めた長男。
「別にしぃんでも良いし、笑い取れなくていいし」
しぃん・・・?何それ?通販サイトのこと?
・・・
みんなが白けたときに出るあの嫌な
”シーン・・・”
のことか!!
それでも良いって凄すぎないかそのメンタル!!!
それなら無敵じゃないか!!
「そうなんだ、じゃあ歌は? 長男君上手いじゃん」
「やだ恥ずかしい」
”シーン”が大丈夫で歌が嫌ってどういう比較だろう。
「じゃあ朗読は?本読み上手いじゃん」
「やだ」
朗読・・・まあ読み聞かせかよって感じで嫌か、そうか、ミスチョイスだ。
「じゃあけん玉は?長男君ちょっとこのまえできてたじゃん」
「それにする。練習しておく」
上手く収まったらしい。
「その日さ、いつ?」
「わからない」
「わかったら教えて。その日は車で迎えに行ってあげるよ」
「やったー。雨がいいな~」
「雨ね、迎えだとラッキーだよね」
「晴れだったらちょっともったいない」
「確かに。 そのあと、ケーキ買いに行こうよ。
よく頑張った!
っていうご褒美」
「やった!!ケーキ!!!」
気分が上がったらしい。
運動会や発表会の後も外食でご褒美ランチを食べている我が家。
その番外編、ということにしよう。
実は、休ませてやりたいとまで思ったほどのHSPな母だ。
様子を見て、本当に休ませるかもしれない。
甘い。そういわれるかもしれない。
けれど今回のこの「一芸披露大会」は、たぶん長男の中で、学校生活の中で一番嫌な活動だ。
私だって嫌だから、容易に想像できる。
もしそれを頑張ってくれたら、ケーキなんて安いものではないだろうか。
頑張ってくれるだけでいい。
恥ずかしさを越えて、やり切ってくれるだけでいい。
嫌なことをがんばるってことが、凄すぎることなんだ。
そんな嫌なことに頑張って向き合ったという自負を、持ってほしい。
この経験が、
「あの時頑張れたんだ、乗り越えられたんだ、今回も頑張れるはず。死ぬわけじゃないし」
と思えるきっかけの一つになってほしい。
とりあえず、夫が帰ってきたら、ケーキからもっと良いものにランクアップするかどうか相談しよう。
多分、『陰キャ』な夫なら、長男の気持ちへのご褒美を、きっとわかってくれるはずだ。