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彼とコスメを。
ふらっと立ち寄ったマルイで、彼が美容部員に声をかけられた。
彼は倹約家であるが美容に興味はある。
そういえば、少し前に化粧水が必要だとかなんとか言っていたな。
私は隣で頷きながら突っ立っていた。内装のバラがきれい、と見つめて。
彼は一通りパンフレットを見たり質問をしながら私に意見を聞いたのち会計を済ませる。
「はい、これ。」と紙袋を渡す。
「君は俺のオールインワン一緒に使ってて、こだわらないって言ってたけど。肌に乗せるものは優しいものがいいでしょ。女の子なんだから。」
きらきらしたパッケージの化粧水。
「私に?」
「そうだよ。ケチらないで使って。」
私はありがとう、と感動してしまう。
帰りのドラッグストアで、マスカラとuv下地を買った。彼はクリスマスだから、と会計をしてくれる。私は遠慮したくなったがお礼を伝えた。
予算が余ったので、買い換えようとしていた化粧品をネットで買おうかカウンターに行こうか悩みながらスマホと睨めっこしていると頭痛がしてきた。
買い物は苦手だ。ケチなので徹底的に調べてからでないと出来ない。
「風呂に入って。俺が調べておくから。」
彼はスマホを取り上げ、タオルを押し付ける。
私は男性にどうやって調べられるんだろうと思ったけれど
気持ちが嬉しくてありがとうと伝えた。
シャワーから上がると、彼はナチュラルコスメのブランドの店舗に電話をかけて経験豊富なBAがいる場所を調べていた。
「でもメイクブラシはそこじゃなくて、Amazonのが安いよ。リキッドでも対応出来る丸筆にすればいいよ。」
おまけにそう言い、私を大層驚かせたのである。
私は都会も苦手だ。
表参道はまだ良いが、原宿渋谷新宿なんてとんでもない。近づくこともできない。
そう思っているのに、彼は新宿に行かないか専門店があるからと誘ってきた。
私はすぐに返事が出来ないでいた。
苦手な都心に出ることで、疲れ果てて彼に当たってしまわないか心配なのだ。
それに、優柔不断ですぐに購入を決断できないかもしれない。
メイク品を買いに彼を連れ回すなんて、無理だ。
彼は私の迷いを聞いて笑った。
「確かに女性の買い物はすごい時間かかる。」
「でも、君の買い物だから行くんだよ。」
私はうーん、と悩む。
焦れた彼は太ももを叩く。
「いいから、クリスマスプレゼントだと思って。お金は気にしないで。連れて行くよ。」
そこまで聞いて私は彼のまつ毛を見た。
「ありがとう…頑張ってみる。新宿。」
「よかった。せっかく調べたんだから、着いてきてくれなかったらどうしようかと思ったよ。」
ありがとうだけでいいんだよ、と彼は言う。
苦手な東京に住み、苦手な恋を克服し、苦手な不規則勤務をして
あまつさえ結婚しようとしている。
だから、きっと新宿のコスメカウンターも大丈夫だろう。
なにより気分をあげて、
きれいな私になりたいと思うのは
きっと、彼の存在も大きい。