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共働き同棲生活
怒涛の連勤が終わり、私達はほぼ同じ時刻に帰ってきた。
玄関を開けたら、湯船に注がれる音がして
私は時間が空くと理解し翌日の準備をすることにした。
おかえり、と彼が顔を出した。
「すぐお風呂入って。お腹すいたから。」
ぽかんとする。
質問しかけてやめた。
彼なりの気遣いなのだ。自分はシャワーで済ませても。
アロマが弾けるタブレットを入れ、肩まで浸かると
明日もまた生きようという気持ちになれる。
ふつふつ煮えるとんこつスープの香り。
走り回る猫たちと、フードコンテナを開ける彼の声。
「会社でうまくやっていくために、面倒な先輩に身の上話をしたよ。」
仕事モードがぬけない彼は東京弁だ。
うん、と聞いていた。アベックラーメンと、常備菜をどしどし食べる。
「結婚前提に同棲してて、って。
ごはんは彼女の方が帰りが遅いから自分作ってますって。休みは彼女が作ってくれますー言っといたわ。」
本当を言っても構わなかったけどと
彼は私を見やった。
「優しいねえ、って時代だねって言ってたよ。」
その先輩は別居して数年経つという。
仕事一筋、女は一歩下がってという昭和の考えを引きずっているそうだ。
私は彼に礼を言い、
「その人が若返って令和で婚活したら、誰も結婚しないだろうね。」と付け足した。
彼はうけあう。でも言いたいのは別のことだろう。
料理。確かに彼は本当によくやっている。
たまにこうチクチク刺すけれど、レンジも冷凍食品も使わず。
彼は寝入りばなに私からキスをするよう冗談めかして言った。私はジョークで返した。
目的と手段を違えないように。
彼は粘っていたが、私が言うことをきかないとわかるとしぶしぶ起きてルーティンをこなした。
私はおやすみ、と目を閉じた。
朝。
甘えたくて私からおはようをしたが、
彼は受け身ちゃんだった。
すぐに体を離し、寝ぼけている彼を置き去りにしてエスプレッソをつくり
散歩に出た。
ジャーの余りでは、彼の昼食分くらいにしかならないし
かといって仕事前にあれこれしたくない。
自分の食べたいパンをいくつか買い求めた。
中でも安いパンを彼用にふたつ、自分用にふたつテーブルに乗せ
残りを鞄に詰めた。
お湯を張っていると彼が起き出した。
「どこに行ってたの?」
私は翌朝のごはんを買ったとだけ言った。
テーブルに気付き、彼は
「クレカで買った?」と質問を重ねる。
私は自分が買いたかっただけだから、デビットと答える。
なんで、と彼は驚く。
「どーしてもパンが食べたかった。でも本当は節約すべきだから。自分で買った。」
彼好みのレーズンパンと、目玉焼きパンだったようで彼の機嫌はほぐれていった。
私はBLTとくるみ。
「なんかさすがに疲れてたみたい。おなかも減ってどうしようかと思ってた。ありがとうね。」
私はお湯を止めにいった。熱熱で入りたいから。
「自分が食べたかったんだよ。」とだけ遅れて言う。
昨夜とちがう、お気に入りのバスソルトをかきまぜて
のんびり浸かる。
夜はなかなかゆっくりできない。睡眠の方が大事だ。
だから朝は湯船に浸かる習慣ができた。
残り湯は彼が好きにしたらいい。
彼にどうぞと声をかけると
のそのそ入りにいった。朝風呂かあ。
私は身支度を整えてスニーカーを履く。
「待って」と、彼は濡れた体のまま出てきた。
「行ってらっしゃい。ごめん、ボーっとしてた。」
目を瞑る。やわらかい感触。
「ゆっくりね。また明日。」
「迎えにいけたら、いくから。」
明日は雨だから、と私は折り畳み傘を持ち笑った。
1人の時間が必要だろう。そんな雰囲気だ。
なんとなくわかる。
「土日君がいないより、平日いない方が寂しい」と言っていたのに、彼の表情は強がりを忘れていた。
点と点がつながって、私はいとしくなる。
寂しいって思うんだ、彼も。