恋人未満。初デートまで。
他の登録者に比べ、文章に小慣れた印象がなかった。媚びへつらう訳でもなく
要求過多な訳でもない。
注意しなければ、通り過ぎてしまうような
ありふれたカードだった。
炎のマークの、あのアプリ。
私の愛車によく似た色合いの
大きな目玉のついたバイクが目に飛び込んできて 思わずライクしたのだ。
何も考えずにスワイプすると、結局実りのないやりとりが発生するので
一日に両手で数えられるくらいの男性と決め
真面目にプロフィールを読み込んだ。
話したい、と思った人がいなければその日はそれでおしまい。
だから、登録期間中に仲良くなった殆どの男性とLINEで繋がっていたので
彼にライクしたときにはほぼメッセージの確認くらいしかアプリを使っていなかった。
だから日に数度のやりとりだったけれど
こちらが返信していなくても、彼は一言二言追伸を送ってきてくれていた。
でも、話好きな印象は全くなく
脈があるのかないのか判断が難しかった。
そのアプリの、どの男性とも雰囲気が違っていた。
もう返信するのをやめよう、と決めて
翌日アカウント削除のためにアプリを開くと
「ニュースアプリで見たのですが」から始まり
私のバイクに似つかわしいパーツの紹介記事と、こちらの体調や天気を気にかける文が簡潔に綴られていた。
それがなんだかおかしくて、
朴訥として一生懸命なひとだと好感を持った。
私からLINE交換を持ちかけた。
どうせ辞めるのだ、恥はかき捨て。
そして、その日のうちに通話をした。
繋がって早々勝手にかけてくるか、
または「通話いいですね!」
の受け身であるか
男性は殆どがそのどちらかだったが
彼は「せっかくだから寝る前に話したい」
と二つ返事だった。
話せば話すほどにわかるのだが
驚くほど私たちはよく似ていた。
家庭環境や、考え方、恋愛遍歴
仕事に対する心構えから
そして誕生日まで。
共通点を探すより、相違点を見つける方がいいかもしれない。
だから、そのことにお互いが疑問をいだき
「無理してない?」
「合わせようとしてない?」
と度々口にした。
そして、LINEよりも通話をメインにコミュニケーションをとるようになったのだ。その日から。
そういえばお互いの顔を一部しか知らなかったので、
交換をして驚く。
若々しく、男前なことに。
その場で撮ってくれたことに。
だから「かわいい」と伝えた。
不服そうだったので付け足す。
「かっこいい、にかわいいと愛しいが内包されてるんだよ」
口にしてまた驚く。
そんなことを堂々と伝えられるほど
無防備に接している事実に。
さまざまな話をしても日々相手が足りない。
彼もまた、不器用ながらそんなことを言う。
やはり、会って話したいと言う。
彼が来る─
その段になって途端に怖くなる。
期待値が高すぎて、幻滅されたらどうしよう
踏み込んで傷つくことが、こわい。
それをそのまま言うと彼も同感だと真面目に答えてくれた。
「でもさ」
マイナスに囚われてたら、現状から出られないじゃん」
「失敗してもいいから、とりあえず会ってみようよ」
「考えすぎちゃうとこも素敵だと思うけど、
俺は正直会いたいし、君にもそう思ってほしい」
もう明け方で、お互いに眠気が襲ってきていたけれども
なんだかその言葉がしみじみよく沁みた。
「ま、君の都合でいいよ。無理なら無理で」
全然よくないくせに、大人ぶって彼は言う。
私は気づかないふりをして
そうだね、と意地悪を返す。
「明日の通話はおあずけかな」と
すかさず切り返してくる彼に
私は「そう来る?」とカウンターをくらわせる。
「大丈夫だと思う」
続けて、さらっと言ってみた。
「失敗にさせないから。
今みたいに、ニヤニヤしてようよ。
ふたりで」
彼には伝わる。
不安も期待も、この根底にある
大いなる出会いへの感謝とともに。