SDZs #3 キンタマ

 何故、キンタマはここにあるのだろうか。

 別に急にもぎりたくなったとかそういう訳ではなく、人類が二足歩行で生活し始めてから早幾千年と長い年月を経て、多くの生き物が進化と衰退を繰り返してきた中、何故今もなおキンタマはこの位置に甘んじているのか、という話である。

 現時点でこの位置にある主な理由は放熱を行う為である、とどこかの本で読んだことがある。
 確かに、日常生活を行う上で転倒の危険性や所作の邪魔にならない場所を消去法で考えていくと、この位置に収まるというのはわからなくはない。むしろ、進化の過程の末としては納得の位置だ。

 問題は、この部分の痛覚関係である。
 男性諸君なら一度は経験したことのある、あの鋭い鈍痛と自分への情けなさとの二重の痛みが襲うアレだ。女性にとってはなんのことやら、と思うかもしれないが、まぁ無いもんの痛みを共感しろと言うのは無理な話でしかない。
 よくこの点について生理痛や陣痛ないし出産の痛みと比較して優劣をつけようとする輩がいるが、そもそも痛みの畑違いもいいところだ。痛くならなければいいに越したことはない。それはそれ、これはこれ。勝ったところで虚しくなるだけである。

 して、種の存続がかかる部位とはいえ衝撃時のダメージ比が圧倒的に高いくせしてブラリ揺れている上に、その表面の薬の吸収率の高さである。弱点が過ぎる。痛覚に関する神経系の本数が減ったり、表皮が丈夫になったり、内部収納された上で放熱しやすい身体の作りに進化してもよかったはずなのにだ。哀れキンタマ。

 しかし、逆に取ればそう進化しなかったのはそれなりに理由があったのかもしれない。あるいは、異常進化個体がすべからく設計ミスで滅びたかだ。
 つまり、この位置にあるのは生物が生きる上で最も適したからだということになる。生じる痛みや薬の吸収率も、だ。

 無駄なようで、無駄でない。人体とは、かくして不思議なものである。