論文紹介: COPを巡り、気候変動に関しての意見の分断が進んでいる
気候変動は世界的な大問題です。特に近年はIPCCの報告に象徴される通り、研究者の中で地球温暖化に対しての確信度は高まっています。そして地球温暖化を防ごうとする活動(pro-climate)の活動が大きくなるにつれ、反対派(climate-contrarian)の活動も大きくなり、議論の白熱度合いは増すばかりです。
今回紹介するNature Climate Changeの論文は、地球温暖化に関する議論の盛り上がりと、2つの派閥の対立の激化を、Twitter分析から可視化したものです。結果として、COP25までに比べ、COP26では格段に分極化の度合いが急激に高まったこと、その高まりは右翼の活動増加によってもたらされたこと、また2つの派閥に共通する論点として、政治的偽善(hypocrisy)に対しての批判が挙げられること、の3点が述べられています。
結果
COP21(パリ協定)とCOP26(IPCC第6次報告書後の石炭火力段階的削減)が特に盛り上がっている
この論文では2014~2021年までの各年のCOP(20~26)のtweetを集めました。その量をみたところ、COP21とCOP26が格段に盛り上がっていることがわかりました(下図下段)。これはGoogle Trend(下図上段)でも同様の結果だったようです。
極性化スコアはCOP26で一気に高まる
この論文ではTwitterから各トピック(COP20~26)について、極性スコアを算出しています。それは、一つのトピックを巡り、2つの意見がどれくらい大きく、かつ遠いところで盛り上がっているかの指標です(一つの意見だけが盛り上がっていてはスコアは高くなりません。同時に2つの意見が盛り上がる必要があります。詳しくは手法参照。RTネットの固有値分解です)。下図がその結果なのですが、COP20~25までは同程度の盛り上がりのように見えますが、COP26のみが格段にスコアが高くなっていることがわかります。
COP26で、Climate-contrarianのインフルエンサーが急増する
極性化の要因として、反対派のインフルエンサーが増えていることが挙げられます。今回のデータセットのうち、top300のインフルエンサー(最もリツイートされた人)を抽出したところ、COP21では反対派は3アカウントしかインフルエンサーがいなかったのに対し(下図左)、COP26では56のインフルエンサーが見つかったそうです(下図右)。しかも、そのうち気候問題に特化したアカウントはわずかであったそうで(11%)、反対派はその他の層から参入してきたことが伺えます。
政治思想と温暖化に対しての態度は強く相関している(at COP26)
次に、同じ分極化測定手法を、温暖化に対してのトピックと政治トピックでも行い、マッピングしています(下図)。これを見ると、Pro-climateは左翼、climate-contrarianは右翼の傾向が非常に強いことがわかります。
2つの派閥に共通するトピックは政治的偽善(Political Hypocrisy)
極性化している2つの派閥をつなぐ上で、両陣営に共通するトピックを見つけ出すことは重要だと思われます。この研究では、2つの陣営両方に出現するトピックを頻度順にランキングしました。その結果出たものとしては、Hypocrisyが目立ったそうです。例えば(温暖化抑制側の)プライベートジェットの使用であったり、ディーゼル車の使用、継続した化石燃料の使用、生活用水の廃棄に対しての批判などが挙げられます。
反対派の5つの主張パターン
反対派のツイートを分析し、彼らの主張を5つに分類しています。
温暖化は起きていない
温暖化は温室効果ガスによるものではない
温暖化は悪くない
既存の温暖化対策は有効ではない
温暖化対策の運動と科学は信用できない
反対派は信用度の低いニュースを多く参照している
最後に、温暖化に対しての態度と、そのユーザが参照するメディアの信用スコアの関係性を分析しました。このスコアはNewsGuardという組織によって作られたもので、多くの研究で使われています。
結果を見ると、COP21(下図左)に比べCOP26(下図右)の方が2つの派閥の違いが明らかになっています。つまり、COP26で増えた反対派は、信用スコアの低いニュースソースを多く引用してしまっていることがわかりました。
議論
なぜCOP26でここまで盛り上がったかについては、この論文では深く触れていません。要因は複合的であると思われ、やはりIPCCの報告書の影響もあると思いますが、この論文では、地球温暖化に関する活動に、政治派閥が合流し(特にトランプ派閥やBrexit派閥がclimate-contrarianに合流した)、活動が一段と大きくなったのではないかと述べています(詳しくはDiscussionの章を参照)。つまり、温暖化反対派の活動が、政治家のアピールに利用されているという形です。
また一方で、著者らは「右翼の方が左翼よりも地球温暖化に関して意見を変えやすい」という他の研究の知見を参照しながら、今回発見したHypocrisyのような両陣営共通のトピックを活用することで、対話を広げていくことが重要なのではないかとも述べています。
また、今回はCOP26の急激な極性の盛り上がりが確認できましたが、これがCOP27でどうであるかの研究は、将来研究として重要だろうと思われます。