【短編】赤い人は来なくとも。-前編-
頬を撫でる風が、ツンツンと私の頬をつつく。
吐く息が白くなるのも、あと数日のことだろう。
通り過ぎていく店からは、気の早いクリスマスソングが聞こえてくる。
サンタなんてそっちのけで、恋人たちが愛し合う様子が延々とピアノに乗せて語られている。周りはクリぼっちを回避するのに大忙しで、皆、合コンに気合を入れて挑んでいる。パートナー獲得と言いつつ、今を楽しんでいる。
そう、周りは近づきつつあるイベントに浮かれて幸せなのだ。
聖夜に向けた新作ケーキが並ぶケースを窓越しに指を