2022年10月号|三人の卓子 「文藝春秋」読者の感想文
明確な改善を
「平和ボケ」と云われる日本で銃撃事件が起きた事に驚いて1か月が経つ。ニュースで知った時はあの統一教会が未だ活動していたことが予想外であるとともに、元総理を狙ったことは飛躍した逆恨みと感じたものである。
どのような理由があるにせよ殺害を企てることは論外で、犯人が厳罰に処されることは当然と言える。一方で、9月号『安倍元首相暗殺と統一教会』で安倍一族の長年の繋がり、教会への対応などを読むと、犯人が他の政治家でなく安倍氏を狙った理由はうなずける。だが、自殺を含む家族崩壊まで起こした背景にある教会の活動に、便を図っていた政治家にも何らかの処分が求められるべきものではないだろうか。
霊感商法で大問題になったにも関わらず教会が活動を続けられたのは、選挙の票さえ集まれば良いという節操のない政治家がいたからであると言われてもやむを得ない。更にそんな政治家がぞろぞろといるというのだから、開いた口が塞がらない。安倍氏の死を無駄にせず、今も教会のせいで苦しんでいる人たちのためにも明確な処置、改善を期待したい。
(佐藤浩郎)
命運を握る「3年」
7月8日、安倍元首相が参院選遊説中に銃撃され死亡した。10日の参院選は自民党大勝となったが、投票率は依然として低水準。9月27日に国葬を予定するなかで、内閣改造・党役員人事は8月10日に行い、「政策断行内閣」といっても派閥のバランス重視の政権となり、目玉人事もなく、旧統一教会との疑惑で刷新直後の内閣支持率は下落した。
毎号楽しみにしている赤坂太郎氏『清和会7人のバトルロイヤル「主を失った最大派閥は、どこに漂流するのか――」』に後継者争いの舞台裏を覗き、安倍「再々登板」の野望に驚いた。岸田首相は次の総裁選まで2年、参院選や衆議院議員任期満了まで3年、相互補完の安倍元首相亡き後、未曽有の難局で政権が崩壊しないことを望みたい。
一昨年は新型コロナウイルスによるパンデミック、昨年は地球平均気温1.1℃上昇の発表、今年はロシアのウクライナ侵略、この3年で変わった世界。国際秩序は崩壊し、世界的な物価高となり、熱波・山火事や高温・干ばつが多発している。日本は経済停滞が続き、赤字国債発行で国家財政を賄い、豪雨・洪水の甚大災害も続いている。
物価高、変異株の感染急拡大、米中関係、ウクライナ危機など内外の課題は山積しており、秋の臨時国会は各党の出直し体制で開催される。岸田内閣は「聞く耳」はあるが決められない政治となれば、政治不信や社会不安は拭えず、バブル崩壊から始まった「失われた時代」が続く。参院選後のこの3年間が、この国の命運を握っている。
(安達忠司)
軍事をタブー視しない
9月号では、小泉悠氏と高橋杉雄氏の対談『ウクライナ戦争「超精密解説」』と、堀川惠子氏の『自衛隊大物OBは告発する』が奇しくも共に軍事に関するもので、安保戦略等の改定が予定されている中、時宜を得ているように感じた。
軍事に関する知識に欠ける多くの日本人は、ロシア・ウクライナ戦争の雌雄を決するのは火力や戦闘機、あるいは兵の数くらいであると考えているのではと思うが、武器の種類によって戦い方や戦況がかくも変わってくるのかと、前者の対談には目を開かされる思いだった。
もちろん、面白おかしく戦況を論じて、犠牲者への悼みに欠くことがあってはならないが、対談の両者はそうした人間性も兼ね備えながら、冷静に分析を行っている。こうした議論をタブー視することなく活性化させていくことは重要であろう。
後者については、「何でも自衛隊に」との依存体質の蔓延に驚いたが、一方で、どんなミッションも着実に果たす自衛隊の姿が印象に残った。育成によってそうした粘り強さや高い使命感などが錬成されている実態には、様々な意味で希望も感じた。
自衛隊については、本稿で論じられた課題以外にも、弾薬数の不足や、各種施設の老朽化など、初歩的な課題が少なくないとも聞く。
そうした多様な視点を多くの国民も持った上で、国会での議論を見据えていく必要がある。安易なイデオロギー論争を展開する余裕はない。
(浅井正光)
悲しみを知る
9月号に掲載された、柳田邦男氏の『御巣鷹「和解の山」』を読んだ。氏は本誌で以前より、日航ジャンボ機墜落事故についての取材や遺族に寄り添った寄稿をされていたので、今回も日航ジャンボ機事故のその後についての取材と検証だと思い読み進めていたが、氏のノンフィクション作家としての視線は、この事故をさらに「悲しみでつながりあう人たちの物語」に広げた。
第1話は東日本大震災で中学1年生の息子を失った母親の物語。その母親の悲しみが御巣鷹の遺族たちの悲しみにみごとにつながり、「悲しみでつながる縁というのもあるのよ」というひとことからは、手を取り合って乗り越えようとする気持ちが伝わった。
私も数年前に両親を相次いで病気で亡くした。事故や病死に限らず、肉親や大切な人を失った人の気持ちは本人でなければ決して分からない。周りにどれほど慰められようと、結局は自分で乗り越えていくしかないのだ。その時に自分と同じ体験をして辛い思いを乗り越えた人との交流ほど、悲しみを持った人に大きな力を与えてくれるものはないし、自分の悲しみを本当に理解してくれる人ほど心強い味方はあるまい。
柳田氏は自らも次男を自死で失くされている。今回の寄稿には、自らの肉親を失った悲しみを知る柳田氏ならではの心遣いと温かさを感じた。御巣鷹の悲しみが同じ悲しみを持った人たちの懸け橋になってくれることを念じつつ次号を読みたいと思う。
(田中仁)
「思想」という道標
『今なぜ現代思想か』と題した浅田彰氏と千葉雅也氏の対談から、現代思想の可能性を見出すのか、それとも無力感に苛まれるのか。
両氏によれば、いわゆる「大きな物語」が失われたポストモダンは相対主義的な傾向にあり、近年のIT化が大衆の分断を加速させた結果、分かりやすさを重視した二項対立図式による粗暴な言説が知性の後退を招いている、とされる。浅田氏はかつて「パラノからスキゾへ」という流行語を生み出し、新しい生き方の可能性を示唆したが、現代社会における大衆の「砂粒化」「タコつぼ化」は、ポストモダンの病理の現れではないだろうか。
千葉氏は、「資本主義」や「左翼思想」といった「思想が戦うべき強固な相手」が失われたが故に、現代思想が困難に直面している、とする。しかし、浅田氏が指摘する、すべての価値を価格に一元化してしまう「グローバル資本主義」は、まさに思想が立ち向かってしかるべき相手ではないだろうか。
利害が複雑化する中、多様性を尊重した共生社会を実現するには、良識に裏付けられた秩序が必要であり、自由が「放縦」に陥らないためにも、普遍的な価値観の追求を諦めるべきではなく、思想はそのための道標を示して欲しいと思う。
(河本哲治)
鯛焼きさながらの……
2年ほど前の引越しを機に購読する新聞を減らして以来、「文藝春秋」を手に取る時間が増えている。
9月特別号では安倍元総理銃撃、ウクライナ戦争に関連する企画の重みに圧倒され、芥川賞受賞作「おいしいごはんが食べられますように」には未だたどり着けていない。
そんな中、600ページを過ぎたあたりに散りばめられた連載に、今回は特に引きつけられた。
芝山幹郎さんの『スターは楽し』にはジェームズ・カーンが登場! 『ゴッドファーザー』での彼、ソニー・コルレオーネについての思い入れたっぷりの言及に、うなずくのみであった。「午前10時の映画祭」で今年4月にも観た作品だが、この先も忘れられない1本であり続けるだろう。
さらに、西川美和さんの『ハコウマに乗って』が素晴らしい。福岡ソフトバンクホークス本拠地のPayPayドームをこれほど気持ちよく語っていただけるとは……。「西川さん、ありがとう!」とホークスビジョンに表示したいぐらいだ。年に数回しか行かない軽めのファンでも、こそばゆく、そして頬が緩む。広島東洋カープ本拠地のマツダスタジアムに御礼に行かねば。
締めくくりの『蓋棺録』では山本コウタローさん、小田嶋隆さんが取り上げられている。個性が際立つお二人のことを思い起こす時間のBGMは「岬めぐり」で決まりだ。
ということで、シッポまでアンコの詰まった鯛焼きさながらの本誌、味わい深さにあふれている。
(江藤三郎)
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