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「検討使」を揶揄できない大新聞 新聞エンマ帖

手練れの業界ウォッチャーが、新聞報道にもの申す!

★「検討使」を揶揄できない大新聞

 11月20日の朝刊をずらりと並べてみたら、吹き出しそうになった。

「寺田総務相更迭も検討」(朝日)

「首相、総務相更迭を検討」(毎日)

「寺田総務相の更迭検討」(日経)

「寺田総務相 更迭を検討」(産経)

 一面の主見出しが見事なまでの横並びである。しかも、岸田文雄首相の真意を認定した前文の文章まではかったようにそっくりなのだ。「視野に」(朝日)とか「方向で」(産経)とか微細な違いはあるが、更迭の「検討に入った」との認定では結局、同じ穴のムジナである。

 違ったのは「寺田総務相更迭へ」と踏み込んだ読売だけで、前文も首相を主語にして「更迭する方針を固めた」と書いて、揺るぎはない。

 不思議でならないのは、既に前日の段階で首相が「先行自供」のような公式発言をしていたことだ。補正予算など政策課題への影響と閣僚の説明責任を挙げ「この2つの観点からどうあるべきか、首相として判断していきたい」と明言した。政治資金問題を巡り寺田稔総務相が説明責任を果たせないことも、続投が補正審議の障害にしかならないことも、火を見るより明らかだ。やっと更迭するのか、と思うのが世間の常識だろうが、どうして政治記者たちは首相発言を聞きながらも「検討」止まりで良いと思ったのか。

 各紙とも、その20日にも首相が更迭の可否を決める最終協議を行う、と書いていた。当たり外れが即日明らかになる朝刊で決め打ちしなかったのは、よほど首相に更迭をためらう事情や寺田氏の続投の可能性を示す情報があったのだろうと思った。だがあっけなく更迭となった翌21日の朝刊を読んでも、「抜かれた」側の紙面には、そうした事情の分かる生々しい情報が見当たらない。

 その点では「抜いた」はずの読売の紙面にも拍子抜けした。「更迭判断また遅れ」と題した二面記事も「首相は今後の国会審議を考慮し、寺田氏は早期に交代させるべきだとの判断に傾いた」との説明以外に、首相の肉声をはじめ政権の奥底に迫る情報に欠ける。

 この種の抜き抜かれに関しては、1日早いだけの報道合戦など新聞の自己満足に過ぎない、との批判もあるだろう。ただ、ここまで混迷を極める岸田政権の明日を占う上でも、それこそ首相のぐずぐずぶりを指弾するためにも、首相の意思決定の過程をリアルタイムで暴く仕事はやはり必要ではないか。

 旧知の古い政治記者に聞くと、「検討というのは便利な言葉」だそうな。「辞任へ」「更迭へ」とまで打てない時に「検討は、どっちに転んでも間違いにならない安全な玉虫色の表現だ」と言う。そういうものかと思うが、それなら「検討使」と揶揄される岸田首相とどこが違うのだろう?

★「こたつ記事」と何が違う?

 寺田総務相は辞任理由について、旧統一教会の問題を受けた被害者救済法案に言及し、「審議日程もない中、私の政治資金を巡る問題が差し障りになってはいけないと辞表を出した」と語った。週刊文春が毎週報じた政治資金問題を元に、野党が国会で徹底的に追及。政府与党がその攻勢に耐えられなくなったことを踏まえると、文春と野党の「共闘」に屈したとも言える。しかし、情けないのは野党だ。自らが掘り出した新事実は見当たらず、もっぱら文春頼みだった。

 そうした前提で寺田氏の辞任劇を報じた11月21日から22日の朝刊を比べてみる。

 まず朝日。21日朝刊の一面「寺田総務相を更迭 政治資金問題相次ぎ」では「寺田氏の政治資金問題は10月上旬、週刊文春の報道で明るみに」、三面の記事でも「寺田氏をめぐっては、週刊文春が10月上旬、寺田氏自らが代表を務める政党支部と……」と、いずれも週刊誌名を明記した。毎日は「辞任ドミノ 首相窮地 強まる内閣再改造論 寺田総務相更迭」と題した三面で「発端は、週刊誌『週刊文春』の10月上旬の報道だ」と、朝日と同様に触れている。朝日と毎日には、ある意味で潔さを感じる。

 では他紙はどうか。日経の22日朝刊の二面「くすぶる内閣改造論 首相、遅れた寺田氏更迭」との記事中、「流れが変わったのは17日だった。21年の衆院選で運動員を買収した疑惑があると週刊誌が報じ……」と、「週刊文春」とは書かない。読売は輪をかけてひどい。22日朝刊の寺田氏辞任の関連記事は、一面、三面を費やしながら、「週刊文春」どころか、「週刊誌」の表記もない。一面では「寺田氏は(中略)政治資金規正法や公職選挙法に違反する疑いが指摘されていた」と記したが、これでは寺田氏に疑惑が浮上していたことは分かるが、そのことを「指摘」したのが野党なのか、他の新聞なのか、週刊誌なのか、さっぱり分からない。

 最近の政治スキャンダルは「週刊誌発」の疑惑を野党が取りあげ、国会審議での首相や閣僚がおろおろする姿を新聞が後追いで書くだけ。いわゆる「こたつ記事」と何ら変わらない。部数減で新聞社の体力は落ちている。デジタルでPVをせこせこ稼ぐだけでは新聞ジャーナリズムの復活はあり得ない。スカッとする「新聞発」の政治スキャンダルを連発しなければ、読者の信頼は回復しないと心得るべきだ。

★食い足りない王将事件報道

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