2022年7月号|三人の卓子 「文藝春秋」読者の感想文
日ロ関係を考え直す機会を
ロシアのウクライナ侵攻が長引いている。
ウクライナの決死の反撃も虚しく、ロシアを国境外に追い出すことはできそうにない。経済制裁を一層強化してもロシアが矛を収めるとは考えづらい。また各国の外交努力も先が見えない。
本誌ではウクライナ戦争の特集が組まれた。4月号の『プーチンの野望』ではロシアの思惑が議論され、5月号では日本の防衛構想として「日本の核武装」の是非について、6月号ではロシアなどに対抗する日米同盟が議論された。
今後は隣国ロシアと、欧米とは異なり長い歴史を持つ日本が、ウクライナ侵攻を続けるロシアとどう向き合うべきかを特集してほしい。
一時的な経済制裁や防衛論争だけではない、歴史・文学から政治・外交・経済、芸能・スポーツなどの多方面に渡って、これまで日ロ関係に携わった人々の率直な思いを知りたい。
政治・外交では北方領土問題に関わった政治家や外務省の担当者、経済ではサハリンプロジェクトやシベリア開発に関わった実務経済人、歴史ではシベリア抑留問題の専門家、文学ではロシア文学の専門家、大学の研究者にも発言してほしい。
また地方自治体の日ロ交流担当者や民間の交流者の話も聞いてみたい。
今回のウクライナ侵攻で、ロシアへの向き合い方を大きく変えた人もあろうが、反対に、長い日ロの歴史を踏まえてその関係をつなげようとする人々もあろう。多くの人の思いを聞き、今後の両国のあり方を考えたい。
(田中仁)
いまのままでは暮らせない
過疎化がすすむ、小都市の農村部に住んでいる。住人のほとんどが70歳を超える。その息子や嫁が町に働きに出て、高齢の親は留守番というケースが多い。
私は集落の町内役員をさせられているので、そんな家庭をよく訪ねる。
玄関で声をかけると親が顔を出す。背後のテレビからは、タレントたちが大笑いしている声が聞こえる。
高齢者のいる家庭は、こうしてテレビをつけっぱなしにしていることがほとんど。
無理もあるまい。
農地は保有していても、米作を続ける家はわずかで、人々は日中、テレビを相手に過ごすことになる。
わが国の電気をめぐる状況は急速に厳しくなっている。原発は思い通りに運転ができず、石油の値上がりは続く。温暖化防止で、石炭はこの先使えないだろう。再生可能エネルギーの普及も容易ではないし、電気料金はジリジリと上がり、電力不足もしょっちゅう言われるようになった。
それなのに、私たちの電気の使い方は以前と変わらない。家庭のエネルギーはほぼ電気でまかなわれている。そればかりか、一歩外に出てみれば街灯も照明の洪水で、際限なく電力を消費する。
いまのような暮らし方をいつまでも続けられるとは到底思えない。
倉本聰氏は6月号『老人よ、電気を消して「貧幸」に戻ろう!』で、電気の“大口消費者”といえる高齢者に、「このままではまずいよ、われわれが率先して電気を消そう」と訴えている。同感だ。
(川村麦生)
女性の社会進出は?
6月号の林真理子さんの『怒りに燃えた「アグネス論争」』を興味深く読んだ。
今から34年ほど前に「アグネス論争」なるものが勃発し、その言葉が流行語大賞まで受賞したことが思い出される。
歌手でタレントのアグネス・チャンが、赤ちゃんを連れてテレビ番組の収録にやってきた事がきっかけで起きた大論争。当時各界で活躍していた女性達の批判がすさまじく、炎上した事を私も覚えている。実際、日本の働く母親、女性の立場を再考させるきっかけとなった。
政府は「社会に進出して働く女性」を全面的に掲げているが、アグネス論争から30年以上が経ったいまも問題は山積みのようだ。
日本の働く母親、女性の働く職場環境や待機児童問題が解決しない限り、女性の社会進出はいつまで経っても完全には実現しないだろう。
私も一人娘が小学1年生の時から働き始めたが、小学低学年の間、学童保育にお世話になれたから安心して働く事ができた。とても助かった。「子どもは大切。でも仕事もしたい」
このジレンマに陥っている多くの女性の声に、政治家の方々には耳を傾けてほしい。
(永野意見子)
永遠の「8時だョ!」
ドリフターズの『志村けん3回忌だョ!全員集合』目当てに、約20年ぶりに本誌を購入しました。
“土曜日の夜は「8時だョ! 全員集合」”世代。職場で同僚に「8時だョ!」と声を掛けて通じれば、同世代です。
当時は他のお笑いには一切目もくれず、ドリフ一直線。50歳となった今でも、日々面白いと感じることの根底には必ずドリフが強烈に存在します。
小学生の当時からダントツで好きだったのがいかりや長介さん。歯向かって来る加藤さん志村さんに対するリアクションが何とも言えず可笑しい。コントではやはり、「威勢のいい風呂屋」が不動のナンバーワン。
現在のドリフ3人のお笑いに懸けるパワフルさからは、生きる活力が貰えます。いくつになっても好きな楽しい事を続けなよという人生の師匠のような存在。死ぬまでコントをやり続けるとは、これこそお笑いを目指す人の理想ではないでしょうか。
(他屋雄一)
利害の見極めを
6月号、藤原正彦氏『美しき論理』は、EUのガソリン車規制の矛盾をついていて大いに納得した。藤原氏の述べるとおり、EU規制の意図は、日本が得意とするハイブリッド車を否定し、EV中心の流れを推進することにあるのだろう。
ガソリン車の販売禁止、EVへの移行は大変もっともらしい議論であるが、果たして実現可能だろうか。
5月16日付日本経済新聞朝刊によると、EVはその使い勝手の悪さから、日本では中古市場に早めに売り出され、価格も新車価格より大幅に下がるなど苦戦を強いられているそうだ。バッテリー技術の革新、充電インフラの整備、自動車関連産業での失業問題等を考えれば、大きな技術革新が起きない限り容易な道のりではないと思う。
気候変動対策の重要性を否定するつもりはないが、国際政治においてその「美名」の陰には常に各国の利害が交錯している。
例えば、1997年の京都議定書でも、基準年を1990年に設定したことで日本がそれまで行った環境対策が評価されずに終わってしまった(反対に、EUは東西ドイツ統一やガスタービン発電などの効果で有利となった)。
現代国際社会のルール作りは、藤原氏の主張のとおり欧米主導で行われている。我々はそれに唯々諾々と従うのでなく、背景にある利害を冷静に見極めるべきであろう。
(佐藤雅秀)
社会人の教科書
「文藝春秋」を4月号から読み始めました。
石原慎太郎さんの『死への道程』やその四男・延啓さんの『父・慎太郎と母・典子』を読むためです。
きっかけは、2年前の6月に亡くなった“ザ・昭和男”の父の面影が、4月号にあった慎太郎さんの笑った顔に重なったこと。延啓さんの記事を読むとさらに慎太郎さんに親近感を覚え、慎太郎さんの『子供あっての親』を購入してしまいました。
慎太郎さんといえば「太陽族」とか言われ、国会議員時代の「青嵐会」のイメージでタカ派、強面で自分とは対極の人と思っていましたが、ここ2ヶ月の「文藝春秋」の記事で、そのイメージもまた、がらりと覆されました。
同じことは「文藝春秋」にも言えます。これまでは文芸誌だと勘違いをしていて手に取ることもなかったのですが、読んでみるとタイムリーな時事情報、スポーツ、芸能、小説と内容が多岐に渡り、また企業動向や霞が関情報まで掲載されている。社会人の格好の教科書です。最近就職して、たまたま家に帰っていた息子にも薦めました。
そんな私が密かに一番面白いと感じているのが、「社中日記」。実際は色々、葛藤があったであろう会社内の出来事が1歩引いた視点で面白おかしく描かれている。このような感覚でいられれば、自分らしく会社員生活を送れるでしょう。
創立100周年を迎えたそうですが、これから先の100年も文藝春秋らしい視点で活動を続けてください。応援しています。
(神谷泰彦)
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