支援団体に搾取された元慰安婦の叫び「韓国政府は切腹せよ!」
国会議員にまでなった、元慰安婦の支援団体「正義連」の尹美香前理事長。表向きは元慰安婦のおばあさんたちのためと言って賠償金を得てきた正義連と尹だが、実は密かに私腹を肥やしていた。そして遂に、元慰安婦のおばあさんは尹を告発する。韓国で大混乱を巻き起こした「内ゲバ」の行方を追った。/文・柳錫(ジャーナリスト)
慰安婦像の前を「不法占拠」
発端は、元慰安婦の告発だった。
「募金が元慰安婦たちに使われず、お金の行方もわからない。私は30年来、騙されてきた」
5月7日、元慰安婦の李容洙(イヨンス)(91)が会見を開き、「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(正義連)の尹美香(ユンミヒャン)前理事長を、「元慰安婦を利用して私腹を肥やした」と告発したのだ。
正義連は韓国最大の元慰安婦支援団体として知られる。だが、その活動実態は、元慰安婦の支援よりも「反日運動」のほうが目立つ「運動体」である。ソウル市中心部の日本大使館前に無許可で慰安婦像を設置するなど、正義連は事あるごとに日韓関係に水を差してきた。だが、韓国内では強い影響力を持ち、尹は4月の総選挙で、与党「共に民主党」の比例政党から出馬し、当選。正式に国会議員に登録される直前、李の告発がなされたのである。
「尹美香の正義連は解体せよ!」
李の告発から1カ月半後の6月24日、水曜日。旧日本大使館前でシュプレヒコールが上がった。
正義連は1992年から28年間にわたり慰安婦像の目の前で、抗議デモ「水曜集会」を開いてきた。前身の「挺身隊問題対策協議会」(挺対協)時代から数えて、この日で1445回目だ。
ところがこの日、慰安婦像の前に陣取っていたのは、別の反日団体「反安倍反日青年学生共同行動」だった。小雨が降りしきる中、雨合羽にマスク姿の大学生ら20人余りが慰安婦像を取り囲むように座り込んだ。〈親日極右勢力の清算〉と書かれたプラカードを握りながら、一言も発さない「沈黙デモ」を敢行している。周囲には警備のために無数の警察官が立ち並んでおり、あたりは物々しい雰囲気に包まれていた。
李容洙の告発会見以降、保守系団体「自由連帯」は正義連に水曜集会をさせないために、慰安婦像前でデモを行う許可を警察に申請していた。ところが、これに反発した「反安倍反日青年学生共同行動」が、警察への事前申告無しに徹夜で慰安婦像の前を「不法占拠」したのだ。結果、自由連帯と正義連は慰安婦像から離れた場所でのデモを余儀なくされ、旧日本大使館前で3つの団体が睨みあうこととなったのだ。
6月24日、慰安婦像前のデモ
「沈黙デモ」の隣で集会を行う自由連帯代表の李羲範(イヒボム)に話を聞いた。
「尹氏はこの場所を、詐欺を働くために使用してきた。だからいま、罰を受けているのです」
慰安婦像から10メートルほど離れた場所で開かれた正義連の水曜集会では、〈尹美香議員 正義連 愛しています〉と書かれたプラカードも掲げられる中、尹美香の後任である李娜栄(イナヨン)理事長が演壇に上った。
「李容洙人権運動家をはじめとする(元慰安婦の)生存者17人の方々の健康と安寧を祈ります。混乱の時間を耐え抜き、再び私たちのそばに堂々と立つことを心から願います」
この日は80人ほどの参加者が集まったが、李が会見で「水曜集会をなくさなければならない」と訴えたこともあり、普段は駆けつけているはずの元慰安婦はひとりもおらず、熱気はほとんど感じられなかった。
30年、共に歩んできた
14歳で慰安婦にされたという李容洙は、2007年に米下院の公聴会で証言するなど、韓国だけでなく世界に向けて慰安婦問題をアピールしてきた。2017年にソウルで行われた米韓首脳会談では、文在寅大統領から晩餐会に招かれ、トランプ大統領とハグを交わしたことでも脚光を浴びた。いわば「慰安婦問題の広告塔」である。
尹を告発した李容洙
一方の尹美香は、韓国一の名門・梨花女子大学大学院を経て元慰安婦を支援する活動に身を投じた。1990年に梨花女子大の尹貞玉名誉教授が挺対協を創設すると、幹事として参加。長年にわたる活動が文在寅政権に評価され、今春、晴れて国会議員となったのだ。
李の会見の翌日、尹は自身のフェイスブックで〈ほとんど30年を共に歩んできた〉と綴ったうえで、こう“反撃”に出た。
〈1992年に(慰安婦であると)申告の電話をしてきたとき、私が事務室で電話を受け、蚊の鳴くほどの声を震わせながら『私は被害者じゃなくて、私の友人がね……』と言っていたあのころのあの状況を、つい昨日のことのように覚えている〉
李があたかも慰安婦であることを偽証したかのような書き込みをしたのだ。支援団体トップを告発する元慰安婦と、元慰安婦を貶めようとする支援団体トップ――いま、この「内ゲバ」が韓国社会を揺るがしている。
尹の“セレブ生活”
李の会見後、正義連が慰安婦を「食い物」にしてきた実態が次々と報じられた。大手紙韓国特派員が語る。
「正義連は2016年からの4年間で49億ウォン(約4.4億円)の寄付金を集めましたが、元慰安婦に支給したのは18%に当たる約9億ウォンに過ぎず、2016年にいたっては、わずか0.2%しか使っていなかったことも判明した。その一方、ビアホールで約3300万ウォンも使うなど、不透明な支出を続けてきたのです」
正義連が募金を集める際に尹の個人口座が使われていたことが判明すると、「募金の横領疑惑」に焦点が集まった。
尹は選挙に立候補した際、5年間の所得税を夫婦で約600万ウォンと届け出ていた。逆算すると、どれだけ多くとも夫妻の年収は5000万ウォンほどである。7680万ウォンとされる韓国の給与労働者の平均年収を下回る。その一方で、尹は家族名義を含め5軒の不動産を現金で購入し、自身の娘を米国の名門・カリフォルニア州立大学(UCLA)音楽大学院に留学させるなど、“セレブ生活”を謳歌してきた。UCLAの学費は年間4万ドルとされ、生活費を合わせると少なくとも年間7000万ウォンはかかるとされる。これだけで尹夫妻の年収を超えており、留学費用の出所に注目が集まった。
さらには、元慰安婦のための憩いの場として購入された施設では尹の父親を管理人として雇い、給与を支払っていたと批判を受けた。
京畿道安城市にある「平和と癒しが出会う家」である。瀟洒な2階建てのペンションは、2013年に現代重工業からの寄付金7億5000万ウォンで購入された。だが、近隣住民によれば、元慰安婦が出入りしているところを1度も見たことがないという。その一方で、酒盛りやバーベキューを楽しむ若者たちの姿が目撃されている。
汗だくで釈明
メディアの取材から逃げ続けていた尹だったが、李の会見から3週間が経った5月29日、ようやく国会内で記者会見を開いた。事前に用意したA4 30枚以上の文章を40分にわたり汗だくになりながら読み上げ、「傷つけたり、ご心配をおかけしたことを謝罪する」と頭を下げた。前出の韓国特派員が語る。
「疑惑のほとんどを否定した上で、議員辞職の意思がないと語りましたが、根拠となる領収書などは示されませんでした。翌30日は国会議員としての任期がスタートする日で、6月5日からは国会が開かれています。この時期に会見したのは、会期中は逮捕されない国会議員の不逮捕特権を念頭に置いたからでしょう」
会見後に、尹をよく知る元慰安婦の金信恵(仮名)に話を聞くと、こう怒りを滲ませた。
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