高血圧症「尿酸値上昇リスクを恐れるな」樂木宏実(大阪大学大学院老年・総合内科学教授)
文・樂木宏実(大阪大学大学院老年・総合内科学教授)
樂木氏
命に直結する重大疾患の入り口
高血圧は「症状」を持ちません。しかし、「高血圧症」という歴とした病名が与えられており、治療が必要です。なぜなら「血圧が高い」こと自体が、体にとっては異常な状態だからです。自覚症状はなくても、それが異常事態である以上、放置すれば取り返しのつかないことになりかねません。脳卒中や心血管疾患など、命に直結する重大疾患の入り口に高血圧症があるということを、まずは認識してください。
治療の大前提として「塩分控えめ」の食生活を実践することがありますが、ここでは治療に使われる薬について触れていきます。
高血圧症治療に使われるおもな薬は大きく5つに分類されます。カルシウム拮抗薬(アムロジンやノルバスクなど)、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB=アジルバやオルメテックなど)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬=レニベースやタナトリルなど)、サイアザイド系利尿薬(降圧利尿薬=フルイトランやナトリックスなど)、そしてベータ遮断薬(メインテートやアーチストなど)です。
カルシウム拮抗薬は、血管を拡張して血流の抵抗を減らします。血流の抵抗が減れば、それを押し出す心臓の負荷も減り、血圧も下がるというメカニズムです。
ARBとACE阻害薬は類似薬剤です。「アンジオテンシンⅡ」というホルモンがあり、これには全身の動脈を収縮させて血圧を上げる作用があります。ARBはこのホルモンが作用しなくなるように働きかける薬、ACE阻害薬はホルモンの産生そのものを抑える薬です。
サイアザイド系利尿薬は、塩の主成分であるナトリウムを体外に排出する働きがあります。前述のとおり、高血圧症の大きな原因の一つに「塩分の過剰摂取」があります。体内に塩分が溜まり過ぎると、色々な機序で血圧上昇に働くことが研究されています。つまり、この薬はその「過剰な塩分」を尿に排出し、血圧を下げようとしてくれるのです。
そして最後のベータ遮断薬は、交感神経に働きかけて心臓の働きを休ませる作用があります。心臓は自律神経に支配されていますが、自律神経は交感神経と副交感神経に分けられます。この2つの神経はつねにどちらか一方が活発な状態にあって、その時もう1つの神経はおとなしくなります。交感神経が活発な時に人間は活動的になり、副交感神経が活発な時は安静状態になります。多くの場合、高血圧の人の心臓は疲れ気味です。そこでベータ遮断薬を使うことで、必要以上に「頑張らなくていいよ」となだめて、血圧を安定させる仕組みです。
現在日本での高血圧症治療を俯瞰すると、この5つの薬品群の中ではカルシウム拮抗薬が最も多く処方されており、次に多いのがARB、また心臓に基礎疾患がある人はACE阻害薬がよく処方されます。
尿酸値上昇は効いている証拠
一方でサイアザイド系利尿薬は、全体の1割程度の患者にしか処方されていません。その理由は、副作用にあります。
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