「吉本芸人×『何か』が価値を生む。だから辞めない」 しずる村上純の“個人の時代だからこそ所属し続ける”組織論
新型コロナウイルスの感染拡大で、自らの働き方を大きく変化させたしずる村上純さん。noteやVoicyなど新たなサービスを使った活動を積極的におこなっていますが、それらは所属する吉本興業主導のものではないそうです。大手事務所に所属すれば安泰だった時代は変わり、退所して自分の会社をつくる芸能人も増えてきています。しかし村上さんは個人活動を充実させつつも、吉本興業を辞める気はないとのこと。村上さんが分析する、組織に所属するメリットとは。(構成・崎谷実穂)
★前編を読む
◆村上純(むらかみ・じゅん)
1981年生まれ。東京都出身。お笑い芸人。吉本興業所属。2003年に池田一真と「しずる」を結成。キングオブコントでは過去4回決勝進出。2012年に結婚、2016年に第一子誕生。お笑いライブやトークライブ、配信ラジオ、YouTube、執筆など幅広く活動。
■ 事務所に所属しつつ個人活動するのがベスト
——これまでの芸能界では、芸能事務所に所属して活動されている方が多かったですよね。でも、それが最近変わってきたように見えるのですが、芸能事務所という組織について村上さんはどう思われていますか?
村上 芸能人と事務所の関係は、変革期にある気がしてます。例えば、昔はジャニーズ事務所を退所する人って、よっぽどの事情がある人だけっていう雰囲気だったじゃないですか。でも今は、あくまで側から見た話ですが、普通に退所する人がどんどん出てきていますよね。そこが動いているということは、それに合わせて時代も動いているということだと思うんです。
でも、一概に「個人の時代だから事務所はいらない」っていうのは違うと思うんです。僕は個人発信でnoteの記事を書いていて、キングコングの西野(亮廣)さんも個人のスタンスでVoicyを始めて、そこから仕事を広げているという。でも、どちらも吉本興業に所属してる。所属している上で個人活動ができるほうがメリットがあると思うんです。例えば、これを読んでくれている他の企業の社員の方々がどうなのかは詳しくわからないのですが、副業がOKな会社であれば僕らみたいな行動は取れると思うんです。
——個人活動をすることについて、事務所から何も言われないんですか?
村上 最近では、例えば僕のSNSのDMに直接仕事の依頼が来た際に、その仕事が現実に結びつくことが多くあります。その時に会社のチェックは勿論入ります。ただ、これまではそういった個人の窓口からの仕事は僕に関してですが、会社のチェックは全くありませんでした。そう考えたら、仕事を受ける際吉本興業も個人の自由を認めるようになってきているという現れなんだと思うんです。だから、僕としては吉本という事務所に所属しながらやりたいことをやれたら一番いいって思います。個人としてもいろんな活動をしてるロンドンブーツ1号2号の(田村)淳さんも、キングコングの西野さんも、ピースの又吉(直樹)さんも、吉本を離れていない理由にそこらへんのものが一つあるんじゃないかって勝手に想像してます。あと、西野さんは吉本の劇場に出るということに芸人としてのプライドを持っているみたいなことを聞いたことがありますし、又吉さんも吉本興業という会社で芸人をやることに意義を感じているんだと思うんです。わからないですけど、お笑い事務所の大手と呼ばれる吉本の中で面白い芸人であることへの矜恃と言うか。
——組織に所属しているメリットってなんだと思われますか?
村上 いくつかあると思うんですけど、一つは「吉本芸人×○○」という掛け算で価値が出せるということ。例えば、noteを書けば吉本芸人×noteだし、Voicyをやれば吉本芸人×Voicy、この記事だったら吉本芸人×文藝春秋になる。フリーの芸人×○○、よりも吉本芸人×○○、のほうがエッジが立つんじゃないかなって思います。まず、目を引きやすいじゃないですか。17年間吉本に所属してきて、劇場に立って芸人をやってきたという実績が、掛け算で活かされると思うんです。
あと、大きい組織にいるといろいろなデータがとれるのはいいですよね。
——データ、ですか。
■ 大きな組織であればあるほど、データと経験を蓄積しやすい
村上 まず吉本興業って、6000人以上のタレントが所属しているらしいんですよ。だから、入ると芸人の先輩も同期も後輩もたくさんできる。そういう人たちの芸を見て、学べるんです。そのおかげで「芸人データ」をたくさん持つことができるんです。数多くの参考書みたいなものが用意されているような感じがしますね。他の芸人さんから、こういう感じでやったらこういう結果を得られた、こうしたほうがいいんじゃないか、といったことをたくさん教えてもらえる。自分たちがネタをやったときのフィードバックもちゃんと返ってきますし。
学べるだけでなく、何か始めようと思ったときに仲間も集めやすいですよね。それって組織に所属するメリットだなと思います。
そして劇場を持っているから、舞台の上で経験を積める。生のお客さんの反応というデータをたくさん集められる。
これって、一般の会社も同じだったりしないんですかね。会社に所属すると先輩や同期、後輩ができますよね。そして、新人でも会社の名前で大きな仕事に関わるチャンスが巡ってきたりとか。それが最初からフリーランスだった場合、厳しいと思うんですよね。「石の上にも三年」じゃないですけど、よくとりあえず3年は辞めずに働けって、よく耳にするじゃないですか。それは、単なる精神論だけではなくて、3年いればそれなりのデータが取れるからという大事な要素が含まれているんだと思います。
——まさにそうですね。
村上 そりゃ、組織にいるからこそのデメリットもあると思います。100%満足できる組織なんてなかなかないと思いますし。でも、事務所も会社もたくさんある中、そこを選んだのは自分の選択。だから、事前にちゃんと調べるのは大事ですよね。例えば副業OKかどうかといったことは、事前に調べられる。調べずに入って、「自由に活動できない」って不満を言うのは見当違いだと言われても仕方がないですよね。
ここから先は
文藝春秋digital
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に配信。月額900円。(「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。今後は、新規登録なら「…