おそめ 文化人が愛した銀座のマダム 石井妙子 100周年記念企画「100年の100人」
昭和30~40年代、東京・銀座にバー文化が花開いた。「おそめ」はその象徴的な店だ。石井妙子氏は晩年のおそめ(1923~2012)と交流があった。/文・石井妙子(ノンフィクション作家)
石井氏
夜の銀座を作った伝説の女性、おそめこと上羽秀が京都でひっそりと暮らしていると噂を耳にし、私は探し訪ねて行った。地味な着物に身を包み、髪を小さく後ろでまとめ、化粧気もない、80歳に近い老女。だが、無心に咲く花のような姿を遠目に捉えた時、私は見とれ、しばらく動くことができなかった。
祇園の人気芸妓であった上羽は、戦後間もなく京都木屋町に小さなバー「おそめ」を開く。カウンターには地元の常連客だけでなく、川端康成、大佛次郎、小津安二郎といった文化人、白洲次郎のような財界人が東京からも寄り集り、彼らに勧められ銀座にも出店。銀座の筆頭格であったバー「エスポワール」のマダム、川辺るみ子と覇を競うと、それをヒントに川口松太郎が小説「夜の蝶」を執筆。さらに名はとどろいた。
上羽は非常に口数が少なく、穏やかで、およそ、「やり手の銀座ママ」のイメージからは、かけ離れていた。酒だけはめっぽう強くて、晩年もオールド・パーの濃い水割りを水代わりに飲んでいたが、酔った姿を私に見せることはなかった。
おそめ
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