朝のお粥の習慣|ウー・ウェン
文・ウー・ウェン(料理研究家)
「早起三光、晩起三慌」(早起きは三文の徳)という諺があるほど日本同様、中国人にとって朝はとても重要なもの。そこで北京生まれの私がずっと大切にしている朝の習慣をご紹介しましょう。
「おはよう、さあ口をあけて」。朝起きたら真っ先に母に舌を見せるのが物心がついた頃から毎朝の行事でした。中医学では「望聞問切(ぼうぶんもんせつ)」といって、舌の様子、口のにおい、問診、脈の四診が基本といわれています。母は医者ではありませんが、私の健康状態をすばやく知るために「お口のチェック」をしていたのでしょう。舌の側面にボコボコと歯形がついていたら体が疲れているかなとか、口が臭えば消化不良かしら? という具合です。これは中国の家庭では昔からごく自然に行われていることで、おそらく長い年月をかけて蓄積された経験値のもと、自然と根づいた暮らしの知恵なのでしょう。私も子ども達が幼い頃は欠かさず行っていました。今は自身の習慣にしています。大人になった子ども達も続けてくれていたらいいなと思います。自分の体を一番よくわかるのは自分ですし、病院にかかる前に自分で体調をチェックする習慣って大事ですから。
もう一つ、朝の健康管理に欠かせないのは朝ごはんです。中国の朝食といえば何といってもお粥です。豆乳と揚げパンという、カフェオレとクロワッサンみたいな組み合わせも昔から定番ですが、これは買って食べるのが一般的。一方、お粥は家で炊いて作りたてをいただきます。
ここで声を大にして言いたいのは、中国のお粥は食べるのではなく「飲む」ということ。広大な大陸の中国では水はとても貴重で、日本のように生で飲む習慣はありません。そこで朝、渇いた体に効率よく水分を取り込むためにお粥で水分を摂るのです。つまり、お粥=「栄養のある水分」というわけです。
ここから先は
文藝春秋digital
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に配信。月額900円。(「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。今後は、新規登録なら「…