藤崎彩織 ねじねじ録|#8 美味しいお店のお品書き
デビュー小説『ふたご』が直木賞候補となり、その文筆活動にも注目が集まる「SEKAI NO OWARI」Saoriこと藤崎彩織さん。日常の様々な出来事やバンドメンバーとの交流、そして今の社会に対して思うことなどを綴ります。
Photo by Takuya Nagamine
■藤崎彩織
1986年大阪府生まれ。2010年、突如音楽シーンに現れ、圧倒的なポップセンスとキャッチーな存在感で「セカオワ現象」と呼ばれるほどの認知を得た4人組バンド「SEKAI NO OWARI」ではSaoriとしてピアノ演奏を担当。研ぎ澄まされた感性を最大限に生かした演奏はデビュー以来絶大な支持を得ている。初小説『ふたご』が直木賞の候補になるなど、その文筆活動にも注目が集まっている。他の著書に『読書間奏文』がある。
美味しいお店のお品書き
3歳年下の弟は、10年前から都内の飲食店で働いている。
最初は美味しい和食の店だと聞いて、高くても1万円くらいだろうと想像しながら、
「へー今度行ってみたいな」
と適当に合わせていた。
でも、ちゃんと調べてみると弟の働く店は所謂高級料亭で、セレブリティ御用達のお店。1人分で現在発売されている漫画ONE PIECE(全98巻)を一気に購入するのと同じくらいの値段がするのだと分かった。しかも、飲み物代は別。
私はホームページにちょこんと書かれている値段を指差しながら弟の顔を見て、「え、本当に?」と言ってしまった。
カーテンを揺らしながら「お化けが出るよ」と言っただけで、布団の中で震えていた弟が?
漢字テストで「大人」という漢字を「ダイジン」と読んで、親族中から笑われていたあの弟が?
高級料亭、しかも半年近く予約の取れない店で、魚を捌いたり肉を焼いたり、なんと蕎麦までうっているのだと言う。
弟の店は、私の家族の金銭感覚ではとても行けるような値段の店ではなかった。
でも、父と母が「たまには社会勉強やな〜」「そやで!」と肩を叩き合い、財布の紐をゆるゆるに緩めながら、弟の勇姿を見に家族みんなで料亭ののれんを潜る事になったのだ。
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