気象病を知っていますか? めまい、腰痛……その症状「天気痛」です。
愛知医科大学病院・痛みセンターの佐藤純客員教授は、天気痛の研究を始めて23年になる。愛知医大に日本初の「気象病外来・天気痛外来」を開設し、『天気痛』(光文社新書)などの著書ももつ、この分野の第一人者だ。/佐藤 純(愛知医科大学客員教授)
怠けているわけではない
雨が降ったり、台風や低気圧が近づいてくると、古傷が痛む、頭痛やリウマチがひどくなる、という話は古くからありました。でも、原因がよく分からず、諦めていた人も多いのではないでしょうか。
「気象病」という医学用語もありますが、これまで天気と痛みの因果関係をきちんと研究した例は海外を見てもなかったのです。私は、天気の変化が身体に痛みをもたらす原因が気圧にあることを突き止め、この症状を「天気痛」と名付けました。国内に少なくとも1,000万人の患者がいる、と推定しています。
私の「天気痛外来」の患者さんは、平均4.6カ所の医療施設を経て来ています。自分の病気が何なのか分からないまま、苦しんでいた人が本当に多い。ゲリラ豪雨など近年の気候変動には急激な気圧の変化がつきものですから、天気痛に悩む人はますます増えていくでしょう。
天気痛の症状は頭痛、肩こり、めまい、腰痛、神経痛、気分の落ち込み、不安、眠気など人によって様々です。症状が出やすいのは、気圧の変化が激しい春先、梅雨時、台風シーズン。春から秋の半年にわたって体調が優れない人や、仕事や学校を辞めて引きこもってしまう人までいます。ところが、職場や学校に理解してもらえずに怠けていると疑われたり、医者に辛さを訴えても気のせいだと相手にされなかったというケースが、たくさんあるのです。
メカニズムを突き止めた
天気痛とは「天気の影響を受けて生じたり、悪化したりする慢性の痛みがある」状態をいいます。つまり病名ではなく、元々もっている病気が天気の変化によって悪化する病態のこと。元になる病気は偏頭痛、緊張型頭痛、頸椎症、肩こり、変形性関節症、腰痛症、関節リウマチ、線維筋痛症などです。このほか、歯周病や脳卒中、喘息なども天気の影響を受けることがわかっています。
では、どういうメカニズムで天気痛を発症するのか。佐藤氏らの研究グループはマウスを使った実験で、耳の奥にある内耳に気圧の変化を感じるセンサーがあることを突き止め、今年1月、アメリカの科学誌『プロスワン』に論文を発表した。鳥類が気圧を感じる器官は特定されているが、哺乳類ではこの研究が初めてだという。
天気痛の可能性が高い人
人間は温度と湿度に関しては、皮膚にセンサーがあって瞬時に感知します。一方、気圧が人体に及ぼす影響は、高山病や深海医学など特殊環境生理学では扱われていたのですが、気象の変化に目を向けられることはありませんでした。エレベーターや飛行機に乗ると耳が詰まることから、気圧センサーが耳にあるとは予想していたものの、今回、動物実験で直接的な証拠を掴んだことは大きなブレイクスルーだと思っています。
気圧センサーが気圧の変化を感じると、脳がストレスと受け止め、自律神経を刺激する。自律神経のうちの交感神経が活発になれば、血流障害や筋肉の緊張が生じ、痛みの神経が発火する。副交感神経が活発になれば、だるくなったり眠くなる――これが天気痛のメカニズムです。
ただ、生まれ持った気圧センサーの感度は、人によって違います。1日の中に満潮と干潮があるように気圧も細かく変化するので、もともと敏感な人が先に挙げたような病気をもってしまうと、天気痛に苦しめられるわけです。
前のページにある「天気痛チェックリスト」の1〜15の項目に多く思い当たる人は、天気痛の可能性が高いといえます。
「天気痛」チェックリスト
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