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「やめる理由が見当たらない」三浦知良は永遠のサッカー少年だ|北澤豪

世界が驚いたカズ53歳でのJ1先発出場。その陰の努力を30年来の戦友、サッカー元日本代表の北澤豪さんが明かします。

<この記事のポイント>
●53歳6カ月でのJ1スタメン出場は、世界のトップリーグで最年長
●カズさんには同世代の現役選手がいないので、参考にできるモデルがないので、すべて自分で判断するしかない
●プレースタイルを時代に応じてリニューアルしていく、驚くべき柔軟性がある

北澤氏

北澤さん

最年長出場の背景

日本サッカーの、いや世界のサッカーの歴史に、J1リーグ横浜FCに所属する三浦知良選手、カズさんが、大きな足跡を残しました。

9月23日、川崎フロンターレ戦で今シーズン初めてリーグ戦に出場。スタメンに名を連ね、56分間プレーしました。1967年2月26日生まれですから53歳6カ月。この年齢での出場はJリーグの最年長記録を更新すると同時に、トップリーグでプレーした選手としては、世界でも最年長だといいます。

横浜FCがJ1に属するのは13年ぶりです。昨年までは1つ下のカテゴリーのJ2でしたから、カズさんの状況が広く世間に伝わっていなかったかもしれません。今回の出場で、カズさんが長年積み重ねてきた努力が、ようやく日の目をみることになりました。いくら頑張っても、出場していなければ評価されないのがプロですから。

初めて言葉を交わした30年前から、カズさんの努力や、日本サッカーへの貢献を近くで見てきた私も、言葉に尽くせない思いを抱いています。

今回の最年長出場の背景には、いくつかの事情があります。今シーズンのJリーグは、新型コロナウイルスの影響で例年よりシーズンが圧縮されています。通常は週1試合が基本ですが、週に2試合おこなわれることも多い。短い間隔で試合を消化していくため、各チームの監督はケガ予防などの観点から、先発メンバーを積極的に入れ替えています。

さらに1試合の交代人数が特例として3人から5人に増えている。若手やベテランの力がいつも以上に必要で、なおかつ、より多くの選手が出場できる環境でした。それもあって、カズさんにもリーグ戦18試合目にして出番が巡ってきたのです。

もちろんオートマティックに順番が回ってきたわけではありません。カズさんはいつでも出場の準備ができていた。だから50分以上もプレーできたのです。

まずは体力面。私も参加したシーズン前恒例の自主トレでは1日3回の練習、いわゆる「三部練」をこなします。しかも練習量は年々増えている。そうしないと身体が作れない。とはいえ短時間に負荷をかけすぎると故障につながるので、以前なら2回でこなしていた練習を、3回に分けています。そのせいで合宿期間が長くなり、以前は年明けに始めていたものが、最近は年末からのスタートになっています。必然的にシーズンオフ、サッカーと離れる時間が削られるのです。

カズ(共同より)

56分プレーしたカズ

迷ったときは周囲の声を聞く

同世代の現役選手がいないので、カズさんには参考にできるモデルがありません。痛みなどがでたとき、トレーニングを続けるべきか、中止するか、メニューを前の段階に戻して、コンディション作りをやり直すのか。その判断が難しい。

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