若手クリエイターの「人生を変えた本」 三浦崇宏
クリエイティブディレクターといういかにも今風な、時には怪しげとも取られる横文字の職業についているために、何か常に最先端のテクノロジーに触れている印象を持たれることも多いが、実態は、いまだに物体としての本を持ち歩き、YouTubeを見ることもほとんどない。
だからこそ、街の本屋が減りつつある今の状況については胸を痛めていた。知っている本屋、通っていた本屋、よくしてくれていた本屋がどんどん姿を消していく。痛恨だったのは、地下鉄六本木駅の出口のすぐそばにあった書店、ブックファースト六本木店が、2021年に閉じてしまったことだ。わたしの会社のオフィスの最寄駅であり、人生で一番長く時間を過ごしている町、六本木の入り口にある象徴的な書店。
客としてもよく通っていたし、著者としても、新刊を出すたびに入り口そばの大きな棚に置いていただいていた。売れ筋の本や新刊を堂々と正面に陳列しつつも、入り口から見やすい側面の壁に、わりとクラシカルな本やマニアックな本もしっかりと並べる。通うに足る本屋だった。
そのブックファースト六本木店がなくなってしまった。最後の営業日、仕事の合間に駆けつけて、両手に抱えるほどの本を買った。中には自分の著書もあった。ずっと置いてくれていたその気持ちに応えたいと思った。
“木曜日は本曜日”
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