母は友達 松山猛
わが母は明治四十五年六月十日の時の記念日に、滋賀県の甲賀郡土山の里に生まれた。その年の七月三十日に改元となり、「私はちょっとだけ明治生まれ」といっていたのを思い出す。小学校を卒業後すぐ大阪に奉公に出るなど、苦労の多い子供時代を過ごしたが、同じ里で育った父が京都の丁稚奉公を終え、自分で店を構えたころに結婚をした。
彼女は時代のせいもあり、充分な教育を受けることができなかったが、生来の文学好きで、僕が育った戦後の頃には、筑摩書房の日本文学全集をそろえて読み、また毎月愛読していた雑誌は『暮しの手帖』で、その料理のページから、日々のごちそうを編み出す名人でもあった。
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