旬選ジャーナル<目利きが選ぶ一押しニュース>|川口マーン惠美
【一押しNEWS】中国を見る世界の視線が変わった/3月13日、Japan In-depth(筆者=古森義久)
川口マーン惠美(作家・ドイツ在住)
1989年、ベルリンの壁が崩壊し、翌年、東西ドイツが統一。91年にはソ連が瓦解し、冷戦が終了した。以後、東欧諸国も続々と資本主義に参入し、世界は一気にグローバリズムに突入していった。
それから30年。グローバリズムの落とし子EUが育ち、今では人も物も資本もサービスも世界を自由に駆け巡る。何よりの衝撃は、貧しかった中国が世界で第2の経済大国になったこと。当時、いったい誰がこんな世界を想像しただろう。
だが、変化はあまりにも急速すぎなかったか?科学技術、価値観、そして世間の常識までがめまぐるしく変遷し、そこはかとない不安はすでに多くの人の心の中に静かに広がっていた。「何かとんでもないことが起こるかもしれない……」。
しかし、それが戦争ではなく、感染症だったとは!これまでの危機はどんなに巨大でも、必ず逃れられるグループがいたが、ウイルスは富裕層にも政治家にも、そして、どの大陸にも容赦なく迫る。ドイツ政府は、大の自慢だったプライマリーバランスの黒字をあっけなく捨て、未曾有の産業救済政策に乗り出した。
古森氏の記事では、この感染症が世界をどう変えていくのか、また、すでに何を変えたのかという米国での議論を取り上げている。氏のまとめによれば、これは中国の発展と、グローバリゼーションの流れの双方に変化をもたらす。
前者は、中国の経済的弱化と習近平体制の不安定化。そして、中国を見る世界の目の変化だ。言い換えれば、伝染病の流行までも隠蔽しなければならない独裁政権の異様な体質への国際的な嫌悪である。
後者は、グローバル化に対するブレーキ。氏曰く、「そもそも超大国アメリカのトランプ大統領は選挙公約にもはっきりとグローバル化への反対をうたっていた」。「そのアメリカで中国発生のウイルスへの対策として、中国との絆の縮小や遮断を説く声が起きるのも、自然だといえる」。
さて、翻ってEUはどうか?世界のグローバル化を先導していたEUだが、イタリアで感染が広がった途端、どの国もあっという間に国家主義に徹してしまった。シェンゲン協定などすでに跡形もなく、今では隣国にさえおいそれとは移動できない。EUの看板「ヨーロッパは1つ」は案外脆かった。ただ、米国と違うところは、中国批判がほとんど出ないことだろう。
EUの多くの航空会社は1月末より中国便を止めたが、それは政府の要請ではなく、航空会社自身の判断だった。客室乗務員の健康を重視しての措置である。一方、中国の航空会社は春節の間じゅう、北京や上海からEUにせっせと観光客を運んでいた。その結果、今、EUの多くの国では、経済活動は止まり、国民は外出さえできないという非常事態に陥っている。つまり国民の間には、政府の後手に対する不満が燻っているはずだが、ドイツではその声は報道されない。
それどころか、当初の中国の隠蔽により、世界に感染が広まったことに対する批判も出ない。中国への輸出に依存している製造業や、インバウンドの回復を願う観光業が、コロナ後の商売の復活に大いなる希望を託しているからだ。その上、政治家の中国に対する涙ぐましい気遣いも相変わらず。中国マネーの威力が絶対であるところは日本とよく似ている。
古森氏の記事によれば、米国は「武漢コロナウイルス」という認識を明確にしており、今後、中国へ流れていた生産活動の国内回帰も加速するだろうとのこと。これを読んで思ったのは、それとは対照的なEUおよび日本の、産官一体のつんのめるような親中ポーズだった。
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