ハンク・アーロンがキング牧師に言われた一言|長谷川晶一
文・長谷川晶一(ノンフィクションライター)
新刊『詰むや、詰まざるや 森・西武vs野村・ヤクルトの2年間』、好評発売中。ノンフィクションライター・スポーツを中心にノンフィクション作品を執筆。主な著書に『プロ野球12球団ファンクラブ全部に10年間入会してみた!』(集英社)、『幸運な男 伊藤智仁 悲運のエースの幸福な人生』(インプレス)など多数。
@HasegawSh
ハンク・アーロン——。
昭和50年代の野球少年なら、誰もがその名を知っていた。アーロン氏の保持していた当時の世界記録である通算755本塁打を「世界の王」こと、王貞治がいつ抜くのか? クラス中がそんな話題に揺れていたのは1977年のことだった。
そして、夏休み明け直後の9月3日、王さんはついに756号を達成した。幼心に嬉しかったし、しばらくの間、クラスはこの話題で持ちきりだった。このとき、「いかに王さんの記録がすごいのか」をマスコミはくり返し報じていた。しかし、子どもながらに小さな懸念があったのも事実だった。それはアメリカ大リーグと日本プロ野球のレベルの差である。小学生であっても、「日本よりアメリカの方がはるかにレベルが高い」ということは薄々気づいていた。日本の球場が狭いということも知っていた。
はたして、王さんの756号と、アーロン氏の755号を同列に比較してもいいのだろうか? 当時、小学生だった僕も、そんな心配を抱いていた。しかし、そんな不安はすぐに一掃された。当のアーロン氏が「ミスター王の記録を心から祝福したい」と爽やかに発言していたからだ。それ以来、僕ら小学生も「アーロンファン」となった。
今年の1月22日(日本時間23日)、アーロン氏が逝去された。一報を聞いた瞬間、みんなで王さんの世界記録に興奮していた、あの日の教室の様子が一瞬にしてよみがえった。
その後、アーロン氏にまつわる数々の報道がなされた。それらの記事を丹念に読んだ中で、強く印象に残ったのが「『黒人には無理』と言われて“本塁打王”になったハンク・アーロンがキング牧師に言われた一言とは?【追悼】」という『Number Web』の記事だった。
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