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「仮想通貨バブル」の闇——詐欺と国税があなたを狙っている

未曽有のバブルによって“億り人”が次々誕生。その裏で、思わぬ落とし穴が待ち構えていた──。/文・大田和博(ジャーナリスト)

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▶︎2017年のビットコイン暴騰時には、短期間で1億円を超える利益を上げた“億り人”が雨後の筍の如く誕生した。だが、そのまま生き残れた投資家は、実はごく少数に過ぎなかった
▶︎仮想通貨に群がる情報商材業者の大半は、若い年齢層を中心に近年大人気の「アフィリエイター」出身者だ
▶︎情報商材業者の中でもとりわけ悪名高いのが泉忠司氏(49)だ。「キング・オブ・コイン」と称されるなど、情報商材業者の中では最も有名な存在である

瞬間億り人の悲劇

コロナ禍における世界的な大規模金融緩和を背景に、代表的な仮想通貨(現在の呼称は暗号資産、以下同)とされるビットコインの価格が暴騰している。

暗号資産投資が一大ブームを迎えた2017年12月8日の取引時間中、1枚約235万円の史上最高値を付けたビットコインの円建て価格は昨年10月以降、3年前のブーム時を遥かに凌駕する一本調子の暴騰を記録。12月17日には丸3年ぶりに最高値を更新し、今年2月下旬には一時600万円台を付けた。

17年の暴騰時には、短期間で1億円を超える利益を上げた“億り人”が雨後の筍の如く誕生した。だが、そのまま生き残れた投資家は、実はごく少数に過ぎなかった。

17年の暴騰時のビットコイン価格は、最高値から1カ月後の18年1月半ばから突如急落し、同年2月6日の取引時間中には64万円台と、1カ月半前の最高値から何と72%も下落。値下がりはその後も続き、1年後の19年2月初めには最高値から85%下落の36万円台にまで落ち込んだ。

こうした事態はビットコインだけでなく他の暗号資産も同様だ。億り人と持て囃された暗号資産投資家の多くは、あっという間に“瞬間億り人”に堕ちてしまった。

その後、瞬間億り人をさらなる悲劇が襲った。ビットコイン暴騰中の17年12月1日、国税庁個人課税課はホームページ上に「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」と題する文書を公表した。だが、億り人の大半はこれに気づいておらず、このわずか6ページの文書がまもなく彼らをパニックに陥れた。暗号資産の税制に詳しい税理士が解説する。

「国税庁の文書には、保有する暗号資産を円やドルなど法定通貨に換金した場合の売却益(実現益)だけでなく、含み益のある暗号資産を他の暗号資産と等価で交換した場合、その含み益にも課税する、と記されていたのです」

一獲千金を狙った暗号資産投資家の多くは17年中に、含み益のある手持ちのビットコインを、新規に発行された別の暗号資産に乗り換えていた。国税当局は、その場合もビットコインをいったん現金化したとみなすと判断したのだ。

「新規に暗号資産を公開することをICO(Initial Coin Offering)と呼びますが、その際には『トークン』という証券的な暗号資産が発行されます。17年秋には多くの億り人がビットコインからそのトークンに乗り換えたため、必然的に高額の課税所得が発生しました」(同前)

もちろん、暗号資産の乗り換えでは彼らの手元に現金は入らない。18年2月の確定申告で17年分の所得税を納めようにも、手持ちの暗号資産は暴落し、むしろ含み損が発生している。瞬間億り人の中には、税制や投資の知識のないままブームに便乗した若いビジネスマンや小規模な自営業者など、他に換金できる資産を持たないケースも多い。結果的に彼らのほとんどが高額の暗号資産所得の申告を見送ったとされる。

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暴騰するビットコインのチャート

動き出したマルサ

こうした無申告の瞬間億り人を狙った税務調査が昨年10月以降、全国で本格的に展開されている。関係者によると、国税当局は18年以降、投資案件の情報などを販売する情報商材業者や、パソコンが苦手な高齢の投資家の資産管理業務を代行する業者らを相次いで調査。彼らの顧客名簿を入手して、19年10月から瞬間億り人に対する調査を着々と進めている。

「国税当局は暗号資産投資家が最も儲かった17年末時点の所得を把握して、17年分を含む過去3カ年間分の課税につなげる方針と考えられます。その意味で20事務年度(20年7月~21年6月)はもともと、瞬間億り人に対する税務調査が活発化する可能性が極めて高かった。新型コロナ禍で9月末まで調査が実施できなかった事情もあり、暗号資産価格が再び暴騰している今なら、瞬間億り人たちも納税資金を捻出できると考えているのかも知れません」(前出の税理士)

その中で国税当局が注目しているとされるのが、「カルダノ・エイダコイン」(以下、エイダコイン)という暗号資産を購入した瞬間億り人たちだ。同コインはビットコインに次いでメジャーなイーサリアムの考案者で、斯界では神の如き存在とされるチャールズ・ホスキンソン氏が新たに考案したもの。プレセール(予約販売)は15年から17年にかけて4度にわたり行われ、価格(円建て)は1枚0.24~0.30円だった。1度目と2度目の販売はホスキンソン氏の意向で、日本の投資家だけを対象に行われた。事情に詳しい公認会計士が話す。

「17年10月22日に1枚3円で海外の取引所に上場されたエイダコインは、18年1月4日に133円まで値上がりしました。この前後に情報商材業者の勧誘に応じて、巨額の含み益が生じたエイダコインをICOのトークンに交換した投資家が多いため、彼らの課税所得も高額になります。国税当局は、エイダコインの管理業務を無許可で行っていた東京の業者の顧客名簿を入手しているとみられます」

また、金沢国税局調査査察部は1月8日、18年までの2年間にビットコイン取引で上げた利益約1億9900万円を隠し、所得税約7700万円を脱税したとして、所得税法違反の疑いで石川県小松市の会社役員、松田秀次容疑者(56)を金沢地検に告発した。暗号資産での脱税の告発は全国初。いよいよマルサも億り人を本格的に標的にし始めた。

脱税ノウハウを売る情報商材業者

億り人たちが税金に頭を痛めるようになると、“節税”と称する脱税ノウハウを売り込む輩が登場する。いわゆる情報商材業者たちだ。そうなると、国税当局の次なるターゲットは情報商材業者となる。

名古屋国税局査察部は昨年11月、億り人らを集めたセミナーで「節税できる方法がある」などと称して脱税のノウハウを売り込んだ名古屋市のコンサルティング会社「LSIホールディングス」と、同社社長の下林勇太被告(38)を法人税法違反などの疑いで名古屋地検に告発した(翌日に起訴)。

下林被告の手口はこうだ。暗号資産投資家約30人に「暗号資産の利益額と同額を経費のコンサル料として振り込めば、税務申告の必要はなくなる」と持ち掛け、投資家の下に利益相当額の現ナマを持参。これを自社の関連口座に振り込ませて利益を相殺させる一方、流動性と換金性の高いビットコインとイーサリアム合計約10億円相当を手数料として受け取り、自身の勘定で運用した。

また、東京国税局査察部は19年12月、実際には取引していないフィリピンの会社に報酬や手数料を支払ったように仮装して、18年までの5年間に法人所得合計約7億9000万円を隠し、法人税同1億9000万円を脱税したとして、東京の情報商材業者「ループ」と「ビリオネア」、広告会社「トリオネア」の3社と、3社の実質経営者の佐藤哲治容疑者を東京地検に告発した。

ビリオネアは14年以降、投資法を紹介する情報商材「バイナリッチプロジェクト」の売り上げを伸ばし、同社の事業を継承したループも情報商材「チェンジ・ザ・ワールド」の販売が好調で、18年3月までの2年弱の売上高は約40億円にのぼる。トリオネアは両社の顧客を他社の情報商材に誘導するアフィリエイト広告(成果報酬型インターネット広告)を出し、利益を上げていた。

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ビットコイン以外の仮想通貨も続々ローンチ

大半はアフィリエイター出身者

情報商材業者は、こうした投資の各種ノウハウを教える塾やセミナーを有料で開催し、そのノウハウをネット上の動画やDVD、PDF形式の電子媒体などの形で販売するが、LSI社の“節税工作”のように、商材には違法行為や詐欺的要素の強い儲け話が多い。詐欺的な案件の多さで知られるICOのトークンが、投資案件として販売されるケースも珍しくない。

情報商材業者の大半は、若い年齢層を中心に近年大人気の「アフィリエイター」出身者。アフィリエイターは自身のウェブサイトやSNS上に商品のアフィリエイト広告を掲載し、消費者がそのサイトに貼られたリンクを経由して商品を購入した場合、広告主から成果報酬を得る。好きな時間に、好きな場所で、自身のペースで作業できるという、ネット時代の申し子のような“職業”だ。

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