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ロシア「大祖国戦争」が歪める歴史認識 大木毅

ウクライナ侵略の背景にある世界観こそが停戦の鍵だ/大木毅(現代史家)

 2022年2月の開戦から1年を経たが、ウクライナ侵略戦争は終結のきざしさえ見せず、それどころか、宇露両軍の新編・再編部隊の戦力化を得て、今夏にはよりいっそうの戦闘の激化が予想される形勢である。

 そのなかにあって、侵攻開始当初、「特別軍事作戦」の目的は、安全保障とウクライナの「ナチス」を打倒することだとしていたロシアは、そうした主張をさらに進めて、自分たちは防衛戦争を遂行していると呼号(こごう)するに至った。外敵、すなわちアメリカをはじめとするNATO諸国の攻撃を受け、「第三次大祖国戦争」(この言葉の含意〔がんい〕については後述する)を強いられたというのだ。

 なんとも荒唐無稽(こうとうむけい)な言説というほかないが、かかる理解はおそらく彼らの集合的・歴史的経験にもとづくもので、それゆえ、ロシア国民に対しては少なからぬ影響をおよぼしていると思われる。

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