稲泉連さんのおふくろの話。
著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、稲泉連さん(ノンフィクション作家)です。
サーカスで働いた理由
母は周囲からいつも、行動が唐突な人だと言われてきたらしい。確かに数年前も突然、「私は那須で暮らすことにした」と言い出し、同世代の知人が共同生活を営む高齢者向けサービス付の住宅地に引っ越していった。何事にも慎重な僕とは違い、物事を決めてからの行動がとにかく早い。その辺りは雑誌ライターやノンフィクション作家として、様々な現場を渡り歩いてきた習性みたいなものなのかもしれない。
少し心配になるのはその「結論」を自ら話すまで、1人息子の僕に対して何の相談もないことだ。でも、「廃校になった小学校で人形劇をするつもりなの」などと夢見るように語る姿を見ると、こちらとしてはもう何も言えない。母が何かを決めたときは、すでに全てが決まっているのだ、と今では思うようにしている。
ここから先は
621字
noteで展開する「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。同じ記事は、新サービス「文藝春秋 電子版」でお読みいただけます。新規登録なら「月あたり450円」から。詳しくはこちら→ https://bunshun.jp/bungeishunju
文藝春秋digital
¥900 / 月
月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に配信。月額900円。(「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。今後は、新規登録なら「…