イベントレポート|文藝春秋100thカンファレンス 「2022年のメインアジェンダ」
文藝春秋100周年カンファレンス「2022年のメインアジェンダ」が2月17日(木)、オンラインで開催された。定員を大幅に上回る約2000人が参加。識者や経営者ら13人が登壇し、リーダーシップ、企業の組織・文化変革、人材育成、DX(デジタルトランスフォーメーション)などについて語った。オープニングで文藝春秋の小濱千丈・取締役メディア事業局長は「まもなく100周年を迎える文藝春秋は、様々な課題解決に正面から向き合うソリューションメディアとして雑誌、書籍、オンラインメディア、カンファレンスなどを通じ、皆様の期待に応えていきたい」とあいさつして幕を開けた。
■基調講演
「未来を創るリーダーへの提言」~2022年のメインアジェンダ~
ジャーナリスト、公益財団法人国家基本問題研究所理事長
櫻井よしこ氏
「今の日本の状況は、ありていに言って心配」と櫻井よしこ氏は語り始めた。安全保障面では、ウクライナ情勢に(講演時は侵攻前)に危機感を示し、「ロシアがウクライナを取れば、中国も台湾を、と考えるだろう」として「安倍元首相が発言した『台湾有事は日本有事』は、その通りだと思う。日本をどう守るかを考えなければならない」と語った。
30年にわたり停滞する経済については、日本が世界のビジネスのルール作りを主導すべきだと強調する。岸田内閣の重要政策である経済安全保障は「戦後の日本経済を支えていた産業政策が、再び必要とされているという発想の中で出てきた」と指摘。政府がイニシャル投資を支援して台湾メーカーの半導体工場誘致に成功したが、韓国や米国に比べて高い電気料金のままでは「操業を続け、産業として育つのか心配がある。原子力発電所を稼働させられず、再生可能エネルギーを増やせば、電気料金はさらに上がる」として「もっと踏み込んで考えなければならない」と訴えた。
一方で、日本が高い技術を持つ石炭火力発電は、欧州などの圧力で段階的廃止とされた。櫻井氏は、途上国への高効率石炭火力発電設備の輸出見直しについて「今後も石炭を使い続ける途上国の削減に貢献できるはず。なぜ、自信を持ってそう言えないのか。国際協調は大事だが、私たちの強み、価値観を活かせず、他者が決めたルールに従うだけでは生き残れない」と述べた。
最後に、幕末に活躍した吉田松陰らについて触れ、「松陰が松下村塾で教えたのは、わずか2年3カ月だったが、門下の60人の中から、明治維新で歴史に名を残す人材を20人も輩出した」という例を引き、「優秀で、勇気を持った人が1人いれば局面はガラッと変わる。武士道の価値観をよみがえらせるつもりで、死ぬ気で頑張れば、我が国は再生する」と話した。
♢課題の解決につながる企業変革期の広報・PRアプローチとは?」
株式会社PR Table
PR(パーソナル・リレーションズ)室マネージャー /Evangelist
久保 圭太氏
SNSの普及でメディアは多様化し、情報の「味わい方」も変わった。企業の広報・PR(パブリックリレーションズ)も新たな手法が求められている。PR Tableの久保圭太氏は「PRは個を基点にしたパーソナル・リレーションズへシフトし、戦略的なメディア運用が必要になっている」と話す。
企業の競争力を左右する人材確保は、中途採用や通年採用の広がりで、PRも新卒採用時期に集中させる意味が失われた。今後は、コンテンツをストックして必要な時に発信する形になる。内容についても、会社側が発信したい会社の情報では関心を呼べない。若者が魅力を感じるのは「社員自らが思いや体験をストーリーとして発信するナラティブな情報」と指摘した。
こうした変化に対応してPRを行うために、コンテンツ作成から、広告の活用、SNSによる拡散などを一貫サポートする同社の「talentbook」(タレントブック)を紹介。「累計1000社以上の支援実績があり、コンテンツの事例も豊富」とアピールした。
■ゲスト講演①
「企業変革の思想ー自発性をもった変革をどう実践するか」
埼玉大学 経済経営系大学院
准教授
宇田川元一氏
「ドラッカーは『革命』を危険視していた。変革は革命ではない」と語った埼玉大学の宇田川元一氏は、地に足の付いた企業変革を考察した。
現在の課題は、急激な変化というより、じわじわ悪化する慢性疾患のような状況に対応できない点にある。その解決策は「慢性疾患に食事や運動などのセルフケアをするように、みんなそれぞれができることをやる以外にない」。
変革のためには過去の成功体験を捨てるべきと言われるが、宇田川氏は「捨てるのではなく、そこから学ぶべきだ」と主張する。1980年代に、日本の経営は高く評価されたことがあった。「日本企業が失ってきたイノベーティブな経営を再びできるようにすることが大事だ」とする。
成果を挙げている、NECの新規事業開発部門のケーススタディを行った宇田川氏は、イノベーションの実践として、既存組織と別の出島組織を作ることが指摘されている。しかし、それだけでは駄目で、そこにコーポレート機能を持たせ、従来と別の価値基準で運営することが必要だ。価値基準の変化が企業全体に及ぶ――という変革の流れが重要と強調。しかし、必要な人材を既存事業部門から派遣してもらうため、人材育成を見返りにして、状況を派遣元に定期的に報告するなど、「対話的な取り組み」がなければ機能しないと指摘する。
方針を打ち出す経営層、組織作りをするミドル層、新たなアイデアを発見するメンバー層、その動きを支援するコーポレート部門。それぞれが「足下から一歩ずつ変革する以外に方法はない」と訴えた。
PR Tableの久保氏から「問題解決に向けて第一歩をどう踏み出すべきか」と問われた宇田川氏は、まず問題の構図を把握する必要があるとして、「『逆に何をすれば問題が悪化するのか』と反転的に考え、他の人の視点を入れて対話的に取り組むことも有効」と答えた。
♢メインアジェンダアジェンダⅡ(DX、サブスクリプション、ビジネスモデル転換)
■テーマ講演②
「サブスクリプションビジネスの本質」~成長へ向けた最適化と収益化のポイント~
Zuora Japan株式会社
代表取締役社長
桑野 順一郎氏
従来の売り切り型の製品販売から、サブスクリプション(サブスク)へのビジネスモデル転換の動きが加速している。サブスクへの変革を支援するZuora(ズオラ)の桑野順一郎氏は「従来の延長で課金形態だけを変更してもうまくいかない。サブスクを正しく理解する必要がある」と語った。
成功のカギは3点。第1に顧客と直接につながり、そのニーズを知る。第2に価値を収益化するというサブスクの考え方を理解する。例えば、建設機械なら土を運ぶことが価値なので、その価値、つまり、運んだ土の量に課金することを考える。第3が、顧客生涯価値(LTV)の追求。そのために常に変化する顧客ニーズを捉えて、そのニーズに対応するサービスを提供し続ける。例えば、ストレージのサービスであれば、利用率の低い顧客には、安価なダウングレードを提案して解約を防ぎ、利用率が高ければ、より充実したサービスにアップグレードを提案できるよう、顧客が満足して少しでも長く利用し続けてくれる多様なプランが欠かせない。製品も「顧客を巻き込みながら進化させる『永遠のベータ版』になる。売ってからが勝負。顧客中心の考え方が大事」と語った。
■ゲスト講演②
「ソニー再生の軌跡」~変革期のリーダーに求められる条件~
ソニーグループ株式会社
シニアアドバイザー
平井 一夫氏
構造改革を断行してソニーを復活させた平井一夫氏は、ビジネス・働き方の変化、DXなど、今の事業を取り巻く課題は「どれも企業の根本的な変化が必要で、ボトムアップでは対応できない。トップダウンの強いリーダーシップが求められる」と述べ、リーダーシップの「見落とされがちな3つのポイント」を話した。
最重要の1点目は「正しい人間になる」こと。部下からリスペクトされ「この人のために頑張ろう」と思われるリーダーは、仕事の実績はもちろん、人の話をよく聞く、公平な態度、といったEQ(こころの知能指数)が高い。将来のリーダーとなる若手人材育成でも考えてもらいたいと強調した。
2点目は「多様性と『異見』の重視」。異なる見方や分析をする人の意見がマネジメントチーム内にあることで、議論が活性化される。その上で、リーダーは「自分の考えとは異なる提案の方が良いと思えば、ためらわず採用する。失敗しても自分が、その提案を選んだ責任をとる姿勢を貫く」ことで、ベストな決断ができるようになるとする。
3つ目は「現場に行く」。CEO在任中の6年間、国内外で70回ものタウンホールミーティングに足を運び、現場の社員らと対話を重ねた平井氏は「トップ外交やトップセールスがあるのに、最も大事な会社の変革にトップが出なくてどうするのか」と話す。質問も事前に集めた当たり障りのないものではなく、その場で聞きたいことを尋ねてもらう。「社員のエンゲージメントを引き出すには、まずトップが自ら腹を割って対話すべき」と訴えた。
視聴者からの「EQを高い人をどう採用すればいいか」という問いに「EQを測る質問をする必要がある。だが、そうした質問をするには、質問する側も自身のEQを高めなければならない」と答えた。
◇メインアジェンダⅢ(業務効率化)
■テーマ講演③
「顧客視点で再考する、業務効率化の意義」~変わりつつある顧客・変われる企業~
株式会社セールスフォース・ジャパン
執行役員 コマーシャル営業 第1営業本部 本部長
植松 隆氏
コロナ禍で、営業手法は対面から非対面中心にシフトした。リモートワーク浸透で社員の顔は見えにくくなり、育成も新たな手法が求められる。そうした変化の中でセールスフォースは、情報をデジタルデータで管理、活用して意思決定、顧客や社員との関係、人材育成の改善に向けて顧客をリードする「Data-informed Leadership」を掲げた。植松隆氏は「変化に対応するために我々ができることを顧客と話し合っていく」と話す。
営業は、顧客情報を中心にしたCRM(顧客関係管理)、SFA(営業支援)ツールで顧客の課題を理解し、商談の進捗状況をプロセス管理する。コミュニケーションは、複数メンバーが共同して文書・資料の作成、編集作業ができるQuip(クイップ)や、ビジネスチャットツールのSlackやチャター。人材育成は、オンラインで1人ひとりに合った学びを提供できるTrailhead(トレイルヘッド)などのツールを取りそろえる。「新しい時代のビジネススキルに対応したツールを用意している」とアピールした。
■ゲスト講演③
「役に立つ」から「意味がある」~昭和的価値観からの脱却~
独立研究家、著述家、パブリックスピーカー
山口 周氏
先進7カ国の経済成長率は1960年代から低下し続けている。オフィスにはデジタル・テクノロジーが導入され、働き方は大きく進化したにもかかわらず、だ。2019年のノーベル経済学賞を受賞したアビジット・バナジー、エステル・デュフロは「先進国に関する限り、インターネットの出現で新たな成長が始まった証拠はいっさい存在しない」とする。山口周氏は「なぜ成長できないのか」という問いを投げかけた。
そこには、生み出された価値/投入労働量で計算される「生産性のトリック」があるという。20世紀、昭和の時代はモノに価値があった。生活の不便さがたくさんあり、それらを解決するため「3種の神器」などの家電が求められた。だが、物質的豊かさが増した21世紀、令和の時代は、こんまり(近藤麻理恵)の「片づけの魔法」が象徴する「ものをなくすこと」にすら価値が生まれる。そして、ものをつくる価値は下がり、生産性も下がった。
では、どうするか。問題がなければ、見つければいい。問題は、ありたい姿と現状の間のギャップに存在する。企業は、まず、ありたい姿、ビジョン、パーパスを明確に定義している。イケア、テスラなど存在感のある企業は、企業自身が「より良い社会」に必要と考えるビジョンを示し、それに共感する人々を顧客として集めている。
山口氏は「顧客の役に立とうとしても、人の価値観は変わる」として「役に立つ機能、使用価値」よりも「意味的な価値を付加するイノベーションが大事」と語る。「変革期の今、高機能を追求する昭和の価値観にとらわれていると生産性を高めることはできないのではないか」と提起した。
最後に、セールスフォースの植松氏が「従業員とのコミュニケーションでも会社の社会的意義を伝えることは大事だと思う」とコメントした。
◇メインアジェンダⅣ (サスティナブル、行動変容、心理的安全性)
■テーマ講演④
「もったいないをなくす、サスティナブル採用の時代」
時代は掛け捨て採用(リクルーティング)から積立採用(タレント・アクイジション)に
株式会社MyRefer
代表取締役社長 CEO
鈴木 貴史氏
減少する労働人口の中でもITエンジニア不足は顕著だ。社員の人脈を使うリファラル採用のサービスを提供するMyRefer(マイリファー)の鈴木貴史氏は、リクルーティングに代わる新たな採用コンセプトとして、海外で加速する「タレントアクイジション(タレント獲得)」を提案した。
「空きポストを埋めるために100の普通の人を採用する」従来のリクルーティングに対し、タレントアクイジションは転職潜在層に自社への興味を喚して「1人の優秀な人材の獲得」を目指す。従来の採用活動の候補者情報は再利用されず、「掛け捨て」データになっていたが、それを自社内に蓄積してタレントプールを構築、欲しい人材をナーチャリングしてアプローチする。
同社は、そのためのツール、コンサルティングを提供する「MyTalent」(マイタレント)を今年2月にリリース。タレントプールのデータベースから、自社採用サイトの訪問をトラッキングしてスコア化、アプローチのタイミングを判定するなどの仕組みの構築を一気通貫でサポートする。
■ゲスト講演④
「組織は変わる。心理的安全性と自律の実践知」
学校法人堀井学園 横浜創英中学・高等学校
校長
工藤 勇一氏
教育改革の必要性が指摘されながら、日本の学校教育はなかなか変われない。国際調査は、日本の子どもたちの主体性、心の幸福度が、他国に比べて極端に低いことを示す。千代田区立麹町中学校の校長として宿題や固定担任制の廃止などの改革を実施した工藤勇一氏は「子どもたちに与え続ける教育が生徒の自律、自己肯定感を失わせた」と従来の教育に警鐘を鳴らす。
原因は「教育界に蔓延する手段の目的化」だ。指導要領は自律した生徒の育成を目的に、豊かな人間性、確かな学力、体力・健康、の3点から成る「生きる力」を培うとする。が、手段のはずの学力育成が目的となり、ペーパーテストの点数を上げるための教育が続く。「真の目的は自律型人材の育成。そのためには一律の押しつけではなく、生徒が『何をどう学ぶか』を決める学習者主体の教育に変わるべきだ」と訴えた。
改革には、まず組織を変える必要がある。工藤氏は、①権限を与えて全員を当事者にする。②それぞれがバラバラな方向に進まないように組織の「最上位目標」を定める。③目標を実現の手段を決定する――がポイントとした。
自律型人材育成では、心理的安全性の担保がカギと指摘。失敗が許され、自律できる環境づくりのため、麹町中では、生徒に「どうしたの」、「君はどうしたいの」、「何を支援してほしいの」の3つの問いで自己決定を促した。また、異なる考えを持つ多様な人との対立、不安を制御し、自身で心理的安全性を保てるよう、俯瞰的に自身を見つめる力(メタ認知能力)を身に付けさせることも大切だ。「自己決定して成果を得て、自分自身をほめられるようになることで自己肯定感は高まる。考えの違う人に対するいらだたしさを乗り越え、多様性の中に新しいものが生まれることを体験する。教育の本質はそういうところにあるのではないか」と語った。
◇メインアジェンダⅤ(ビジネスモデル変革、事業戦略、組織開発)
■テーマ講演⑤
「変革への挑戦を支える、デジタル基盤の必要性」
~イノベーションの理想を具現化する経営管理のあり方~
Board Japan株式会社
カントリーマネージャー
篠原 史信氏
経営管理ツールを提供するBoard(ボード)の篠原史信氏は、企業のビジョンを実現するイノベーションに向けて、戦略の進捗状況を分析・管理する計画業務の理想型を紹介し、テクノロジーを使った企業変革を訴えた。イノベーション推進には、戦略が描く遠い未来のあるべき姿と、近くの未来を比較する「予予分析」を通じてマネジメント・エクセレンス(経営管理の最適化)を突き詰める必要があると指摘した。
しかし、日本では多くの企業が予実(予定と過去)比較にとどまるため、計画品質が劣化する。計画業務の速度を上げるには、データを一元管理して予予分析を行い、複数の分析シナリオを用意して、不確実性に柔軟に対応する。財務と事業部門をつなぐ専門家として、FP&Aが、両者の情報の溝を埋めるループをつくり、組織の各所がデータに基づき自律的に動くことでイノベーションが確実になる。Board上で、現場の需要予測、生産計画などと、財務KPIを動的に連動させ、「組織の問題を自分ごととして認識できる」環境をいち早く実現する事が重要と説明した。
■ゲスト講演⑤
「両利きの経営 組織カルチャー変革への挑戦」~人の心に灯をともす、リーダーの条件~
AGC株式会社
取締役会長
島村 琢哉氏
祖業のガラス事業低迷を受け、2018年に社名を旭硝子からAGCに変更、「ガラスの会社」から「素材の会社」へ転換させた島村琢哉氏は、変革に臨む考え方やリーダーの役割を語った。
液晶向けガラスの需要減で14年の営業利益はと620億円と、4年間で4分の1近くに落ち込んだ。ここで島村氏ら経営陣は創業の原点に立ち戻る。同社は1907年、三菱財閥2代目岩崎弥之助の次男、俊弥が輸入に頼っていた建築用ガラスを国内で製造、提供しようと立ち上げた会社だ。島村氏は「始まりはガラスだが、時代に合わせ社会に必要とされる素材・ソリューションを提供する」と会社の存在意義を再定義した。
そこで、建築用ガラスなどコア事業でキャッシュを生みながら、モビリティ部材、エレクトロニクス部材、ライフサイエンスの高成長領域にM&A投資をして、将来の柱となる戦略事業を創出する「両利きの経営」を推進。営業利益は21年に2000億円まで回復し、その4分の1を戦略事業が占めた。
作り込む力という日本の製造業の強みを活かし、社会的意義などのビジョンを持つ。人々の情熱と経営者の覚悟を戦略的事業の推進力とし、長期に支える組織を構築して働く人の心理的安全性を担保する。挑戦する組織風土醸成のため、CEOだった島村氏自身が15年から3年間で国内外50カ所の現場を訪問、従業員と対話を重ねて会社の方向性を浸透させた。社名変更と共に定めたブランドステートメント「Your Dreams, Our Challenge」はチェコ工場の若手社員の発案だ。
リーダーは「ぶれたり、逃げたり、おごったりしてはならないと肝に銘じるべき」と強調。その理想像を「偉大な教師は人の心に灯をともす」という米国作家、ウイリアム・アーサー・ウォードの名言に代えた。
◇メインアジェンダⅥ(人材育成、経営改革)
■ショートセッション(株式会社スタディスト)
スタディストが提供しているクラウド型マニュアル作成・共有システム「Teachme Biz(ティーチミービズ)」は幅広い業界で使われている。ショートセッションは動画で、製造業を中心に活用事例を紹介した。
今の製造業は、品質やコストでの差別化は限界があり、納期などデリバリーの改善が注目されている。そこでは、マニュアルによる作業標準化が有効だが、作成や運用面に課題を抱える企業は多い。Teachme Bizのマニュアルは、手順を区切ったステップ構造とビジュアル化が特徴。文字が少なく、作成時間を5分の1程度に短縮。更新も変更部分の入れ替えで済む。
作業改善や教育にTeachme Bizを活用すMipox社の事例紹介では、画像、動画を使ったわかりやすさや、QRコードからの読み出し機能で探す手間を省いたことで、現場でのマニュアル活用が進み、作業間違いを削減。教育研修にも活用し、時間・工数を半分程度にできた、としている。
◇ファイナルセッション
■特別対談
サントリーホールディングス株式会社
代表取締役社長
新浪 剛史氏
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『文藝春秋』編集長
新谷 学
ファイナルセッションは、サントリーの新浪剛史氏が登壇。文藝春秋の新谷学編集長を聞き手に、今後日本経済が進むべき方向性や、リーダー論などを語った。
今年については、コロナ下で約30兆円に積み上がった家計の強制貯蓄を元手にしたリベンジ消費を予想。一方で、エネルギーコストの上昇や、国際情勢に伴うサプライチェーンの不安定さからインフレが課題になると語った。
今の日本は、政府に頼って民間が「アニマルスピリット」を失い、その象徴である300兆円超にまで積み上がった民間の現預金残高を動かすべきだと強調した。賃上げについては、売りが立っても利益が出ないデフレの状況を脱却し、適正価格を実現することが重要とした。
話題となった45歳定年説については、「『定年』と表現したのは私のミス。“人生100年時代”の折り返しとなる45歳くらいまでに、人生をどうありたいかを真剣に考えてほしい。成長しない企業に寄りかかる人生でいいのか。もっと外に目を向けるべきと言いたかった」と真意を説明。最近の副業の増加が、人材の流動化を促すことに期待した。
トップのリーダーシップについては「パーパスを語るだけでなく、実践する後ろ姿を見せなければ、社員はついてこない」と述べ、言葉に言霊の力を込めるには、修羅場経験が不可欠と訴えた。前職のローソン社長時代、東日本大震災を受けて「地域社会の役に立つ」という存在意義を実践するため、「ぎりぎりの手段を尽くして」東北に商品を供給した経験や、サントリー社長就任の直後に、買収したビームの経営の主導権を握るための厳しい交渉経験を披露。リーダー候補の若手も、現場で修羅場を経験させ、論理では割り切れない世の中の不条理を知る機会を与え、乗り越えることが大切とした。
最後に、新谷編集長が「創刊100周年を迎えた文藝春秋は、これまで先送りを続けてきた日本に山積する難問に向き合い、解決を目指すソリューションメディアの役割を果たしたい」と話し、新浪氏も「深い洞察と広い視野で、より良い雑誌にしていただきたい」と語った。
2022年2月17日開催
写真 今井 祐介
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