読者からのお便り 2023年1月号 三人の卓子
創刊100周年の雑誌『文藝春秋』での名物コーナー「三人の卓子」。読者の皆様からの記事への感想を募集・掲載しています。
応募メールアドレス mbunshun@bunshun.co.jp
「空白」が怖い
私は、63歳で前立腺がんの全摘手術を受けて以来、70代で胃・食道、80代で膀胱と、計4つのがんを経験している。それでこの歳まで生きている。ありがたい限りである。しかし、治療の途中では我ながら情けなくなるほど、不安で、怖くて、つらい想いをした。
だから、12月号の「世界最高のがん治療」、特に後半の特集四編は身につまされる思いで読んだ。「これだ」と思うことがいくつもあった。
中でも、終末期医療のパイオニアにして自らもステージⅣのがんを患い、抗がん剤治療を選ばなかった山崎章郎医師の『死後の世界はあってほしい』(聞き手・奥野修司氏)。山崎医師の言う「空白地帯」には深く共感した。
思い起こせば、私のがん体験の中で最も辛かったのは、何もしないで待つことだった。今後の治療方針を決めるための検査のたびに、結果を待つ。骨への転移がないか調べた時は、医師に「もしあったらどうなるのか」と尋ねると、「環境を変える……」云々と、歯切れが悪い。緩和医療しかないのかと不安になった。治療を待つ間の「空白」が一番怖いのだ。
私の4つ目のがんは、「再発性」という冠をかぶっている。今は死を恐れることにもだいぶ慣れたが、何かやっていないとやはり不安が募る。だから「インチキ免疫療法」にすがったり、宗教に救いを求める気持ちが痛いほど分かる。
後藤正治氏の『文藝春秋が報じたがん患者の肉声』には皆、精一杯生き切ろうとする思いがこもっていた。私も見習いたい。(北海道 堀川七郎)
複雑な国民の気持ち
12月号、西村康稔経済産業大臣の『原子力活用を一歩前へ!』を読みました。
西村大臣は「守られるべき国益とは具体的に何なのか。その最たるものが、エネルギーの安定供給の確保であろう」と述べられています。そして、エネルギーの安定供給には原発が必要、というのが西村大臣の結論のようです。私も全く同感です。
日本は四方を海に囲まれ、資源に乏しく、地形上の理由や気象条件から、太陽光パネルや風力発電用の風車などを多く設置できません。このことを考えると、西村大臣の言うように、「『再エネ一本足打法』では、安定供給の確保は危うい」のでしょう。
私は、日本のような国こそ、原発がエネルギーの安定確保に一番適すると考えます。多くの国民も、エネルギーの安定供給には原発が必要だと理解していると思います。
しかし一方で、一旦事故を起こしたら原発ほど危険なものはないと考えている国民も多いでしょう。ロシアのウクライナ侵攻で原発が攻撃対象になったことも、原発に対する不安を一層大きくさせました。原発に対する国民の思いは、単純なものではありません。
原発の必要性と、事故や事件が起きた時の危険性。どちらも感じている国民の気持ちの矛盾を、少しでも解決するのがやはり政治の役割だろうと思います。
西村大臣をはじめ、政治家には、国民に対して逃げずに原発の必要性を説くと同時に、事故や他国の攻撃から守るための手段を講じてほしいです。(愛知県 二宮力)
見栄を捨てる
12月号、紫苑氏の巻頭随筆『「年金月五万円」で暮らすということ』。独身、子どもなし、仕事、健康、住宅ローン、年金などで不安な今、夢中になって読ませていただいた。
氏の文章には、今後の参考になりそうな内容が多くあった。お金がないからといって、生活が惨めになる訳ではない。「ムリ!」「できない!」「狭い」「お金がない」というマイナスの考えは、思い込みであると教えられた。
また、下流老人になりやすい人の特徴が、「中流幻想を捨てきれない」「見栄を張る」ということにも心を揺さぶられた。無意識に見栄を張らなければいけないと思っていたが、これは中流幻想だった。見栄を捨てようと思っただけで、少し気持ちが軽くなった。
氏は食事についても書いている。3食しっかりと食べる、美味しく栄養のある物を食べる。この習慣は、甘い物が好きで、時に飽食な私は今からでも始めたい。例に挙げている、いわし、鶏肉は使いやすい食材なので心強い。氏は現在、健康状態が良いと書いており、高級食材や、沢山食べることだけが健康に繋がるわけではないということがよく分かる。
支出の見直しも大切である。ついつい洋服を買ってしまうのは、見栄もあるような気がする。本当に欲しいと思ったのか、自分に必要なのかと考えると、今より質素な生活ができそうである。
それは我慢ではなく、物と向き合った生活であると思う。楽ではないとも思うが、月5万円で暮らすことは、健康面、気持ち、生活を見つめることだ。新しい発見があれば楽しみにもなるだろう。自分と向き合いながらの生活だと考えると、これからの年金生活に対する不安も軽減する気がした。(京都府 畑祐子)
「愛子天皇」
12月号の岩田明子氏『安倍晋三秘録(3)「愛子天皇」を認めていた』を興味深く拝読した。
天皇陛下のお子さまは愛子さまのみである。しかし、皇位継承者は男性でなければならない。女性であるが故に、天皇陛下の子であっても「愛子天皇」とはならないのだ。
このことを巡って、安倍晋三氏は生前「愛子天皇であっても良いのではないか」といった趣旨のことを口にしていたという。
私は、何が何でも男性でなければならないということはないと考える。実際、皇室史上8人の女性天皇が誕生しているのだから、そう考えるのが至極当然のようにすら思う。安倍氏も同じ考えだったのではないか。
しかし安倍氏は、この継承問題について結論を出せないまま非業の死を遂げた。岩田氏によれば、安倍氏は「愛子さまがいらっしゃるうちは、女帝を認め得る形にすればいい。それで皇統は50年、60年は保たれるだろう。その間に男系の家を新たに建てて、皇位を継承する流れを作ればいいのではないか」と考えていたという。私もそう思う。
その方が陛下も愛子さまも、ご安心できるのではないかと思うのである。(宮城県 松谷博)
聖地になった御巣鷹
柳田邦男氏の『御巣鷹「和解の山」』が、12月号で最終回を迎えた。
柳田氏の著書はこれまで何冊か読んだが、緻密な調査とその分析力、そして、表現力にはいつも引き込まれる。
この連載にも、毎号惹きつけられた。そして、私に様々なことを感じさせてくれた。
520名の死者を出した日航機墜落事故の現場である御巣鷹山。現在この山が、様々な理不尽な事故で家族の命を奪われた遺族の連帯の場所、聖地となっていることが、様々な事例を通じて記されている。遺族たちは、やり場のない想いをお互いに受け止め合っている。
突然の事故で、家族を失った無念。2度と同じ事故が起きないよう原因究明を求める遺族の執念。鬼気迫るものを感じた。人間は弱い。しかし、道しるべさえあれば、前へ進んでいけるのだと思わされた。
遺族の気持ちは永久に癒されることはなく、御巣鷹山は犠牲になった方々の無念のみが残る場なのだろうと、勝手に思い込んでいた。しかし実際は、たくさんの遺族の連帯の場になっている。
これは、事故の重大さを受け止め、その反省を無事故への決意に変えた日本航空の誠意ある対応の結果でもある。心からの気持ちだけが人を癒すのだ。
実は、毎号、この連載を涙しながら読んでいた。(大阪府 吉野美由紀)
翔猿関の意外な一面
大相撲に強い関心を抱く私は、佐藤祥子さんの『大相撲新風録』を毎号楽しみにしている。
昭和の時代は、男性が大相撲のことを語るのが定番だった。女性の相撲記者を見かける機会はほとんどなかったように思う。しかし平成になってから、大相撲に詳しい女性記者やライターが次々と出てきた。佐藤さんは、まさにその横綱格だ。単行本もたくさん出版しているし、大相撲の専門雑誌にも書いている。
12月号では、翔猿関のことを取り上げていた。翔猿関が落語家の三遊亭圓雀師匠と親交が深かったことを初めて知った。また、大の子供好きだということも今回初めて知った。もしお相撲さんになっていなかったら、幼児教育の道に進んでいたかもしれない程だという。
九州場所は新三役で張り切っている。取組後のインタビューでも、いつもハキハキとしている。
佐藤さんには、これからも旬の相撲情報を伝えてくれることを期待しています。(広島県 服部直記)
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