飯間浩明の日本語探偵 【ひ】「誹謗」なき「批判」 識者さんお手本見せて
国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです。
【ひ】「誹謗」なき「批判」 識者さんお手本見せて
5月下旬に女子プロレスラーの木村花さんが亡くなったことは、ネット社会に衝撃を与えました。いわゆる恋愛リアリティー番組に出演中の言動について、彼女がネット上で強烈な誹謗中傷にあっていたと報じられたからです。
ことばが人を殺したのかもしれない。ことばを専門とする人間として強い無力感にとらわれていた時、オンラインメディアの記者から「今回の件をどう思いますか」と取材を受けました。
私なりに一生懸命答えました。誹謗中傷を行う人は、それが正義だ、かっこいい、スカッとすると思ってやっている。その空気をまず変えなきゃいけない。誹謗中傷なんかやってる人間はダサい、かっこ悪い、キモいという社会的な空気ができれば、抑止力になるのではないか。そんなことを述べました。
誹謗中傷はダサいという空気を誰が作るか。もちろん、社会全体です。とりわけ期待されるのは、識者と呼ばれる言論リーダーの役割です。識者が手本を示せば、一般の人々は学びます。
実際には、しばしば、識者が個人を罵ったり冷笑したりしているのを見ることがあります。「学識ある人なのに……」と、大いに落胆します。これは悪いお手本です。識者に必要なのはむしろ、批判と誹謗中傷の違いを実践的に示すことです。「批判はするが、誹謗中傷はしない」という姿勢を貫くことです。
批判と誹謗中傷はまったく別のものです。両者の違いは、要するに「相手の人格を尊重するかどうか」です。
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