見出し画像

飯間浩明の日本語探偵【し】「恣意的」ということば どう理解すればいいのか

国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです。

【し】「恣意的」ということば どう理解すればいいのか

検察庁法の改正案が議論されていた2020年5月、ネット上で「恣意的」ということばの検索頻度が急上昇しました。法案では、検察幹部の定年を、政府が認めた場合に延長できる規定がありました。「政権が制度を恣意的に運用するおそれがある」と、抗議の世論が盛り上がり、法案は先送りになりました。

この「恣意的」については、しばしばネット上で話題になっているのを目撃します。たしかに、複数の使い方があって、ややこしい面はあるのです。このことばをどう理解すればいいのか、この機会にまとめてみます。

まず、「恣」という字は「ほしいまま」と訓読みします。『大漢和辞典』では、「恣意」を〈心をほしいままにする。勝手。きまま〉と説明します。まあ、「心のまま」ということですね。ただし、「心のままに生きる」を「恣意的に生きる」とは言わない。「心のまま」という説明だけでは不十分です。

「恣意的」の基本的なイメージは、「これといった規則に基づかない」ということです。たとえば、漫画のことばを調べようとして、書店で目についた漫画を適当に10冊選んでみた。これを「恣意的に選んだ」と言います。「任意」よりも思いつきの度合いが強い感じ。

ここから先は

464字
noteで展開する「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。同じ記事は、新サービス「文藝春秋 電子版」でお読みいただけます。新規登録なら「月あたり450円」から。詳しくはこちら→ https://bunshun.jp/bungeishunju

文藝春秋digital

¥900 / 月

月刊誌『文藝春秋』の特集記事を中心に配信。月額900円。(「文藝春秋digital」は2023年5月末に終了します。今後は、新規登録なら「…