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芝山幹郎 土方巽さんの肉声
文・芝山幹郎(評論家・翻訳家)
「力士の名で一番いいのは何だ」
土方巽さんにそう訊かれて、私は反射的に「星甲(ほしかぶと)」と答えていた。
「星甲か。それもいいなあ。でも、俺は新海(しんかい)だ」
不世出の舞踊家だった土方さんはそう言って笑った。50年ほど前のことだ。あのときの笑顔と声が、眼と耳にまとわりついている。もっとディープな会話を交わした記憶もあるのだが、自分がちょっとだけ褒められた気がして嬉しかったせいか、あの声は繰り返し思い出す。
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