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第68回「菊池寛賞」発表

第68回菊池寛賞の選考顧問会は10月6日午後5時から、阿川佐和子、池上彰、保阪正康、養老孟司の四顧問を迎え、東京・築地の新喜楽で開かれました。慎重な討議の結果、下記の通り授賞が決定いたしました。アンケートをお寄せくださいました各界の方々、並びにご協力いただきました各位に厚く御礼申し上げます。

公益財団法人日本文学振興会
東京都千代田区紀尾井町3-23 文藝春秋内

賞・各受賞者に正賞・置時計及び副賞・100万円

Q:菊池寛賞とは?
A:文藝春秋の創業者・菊池寛(明治21年~昭和23年)が日本文化の各方面に遺した功績を記念するための賞で、昭和28年から現在の形になりました。文学、映画・演劇、新聞、放送、出版、その他文化活動一般において、前年9月から8月までの1年間に、最も清新かつ創造的な業績をあげた人・団体、もしくは永年に亘り多大な貢献をした人・団体に贈られます。正賞は置時計、副賞は100万円。選考顧問会が毎年10月初旬に開かれ、受賞者・団体は「文藝春秋」12月号で発表されます。現在の選考顧問は、阿川佐和子・池上彰・保阪正康・養老孟司の各氏です。

▼林真理子

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40年ちかい文筆生活のあいだ、現代社会に鋭く切り込む小説から歴史、古典を題材にした作品まで多岐にわたる創作、昭和より続く「週刊文春」連載エッセイなど、常に最前線で活躍を続ける

▼佐藤優

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『国家の罠』で2005年にデビュー以来、神学に裏打ちされた深い知性をもって、専門の外交問題のみならず、政治・文学・歴史・神学の幅広い分野で執筆活動を展開。教養とインテリジェンスの重要性を定着させる

▼滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール

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今年3月、コロナ感染が拡大するなか、オペラ「神々の黄昏」の無観客上演をいち早く決断。ユーチューブでの配信は海外からを含めて41万人が視聴し、コロナ時代の文化イベントのありかたに一石を投じた

▼秋田魁新報 イージス・アショア取材班

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2017年の配備計画浮上後、地元紙として計画の妥当性を調査・検証。防衛を専門とする記者がいないなか、地道かつ多角的な取材で現地調査のずさんな内容を暴く。本年、同計画は断念に追い込まれた

▼篠山紀信

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半世紀にわたりスターから市井の人まで、昭和・平成・令和の時代を第一線で撮影。その業績は、2012年より7年間全国を巡回し、のべ100万人を動員した個展「写真力 THE PEOPLE by KISHIN」に結実する

菊池寛賞受賞を喜ぶ

夢の物語の、まだ続き 辻村深月(作家)

林さんと同じ山梨県出身の私にとって、幼い頃から「林真理子」の名前は特別なものだった。周りの大人たちが同郷のスターとしてその名を語る時、枕詞に「作家」はまずつかない。活躍の幅が多岐にわたればこそと思いつつ、高校生の私にはそれが歯がゆかった。作家としての林真理子の話がしたかったのだ。

地方に生きる多くの“わたしたち”の青春を描いた『葡萄が目にしみる』、古典や歴史の中の登場人物だと思っていた人々にも自分たちと同じ生きた思いが通うことを教えてくれた『ミカドの淑女』や『西郷(せご)どん!』、『下流の宴』で社会の格差を、『我らがパラダイス』で介護を、圧倒的な筆力で小説に昇華すること。少し例を挙げるだけでも、時代時代に林さんが描いてきた小説は、何に題材を求めたかまで含めて、それ自体が1本の物語のようだ。

先日お会いした、山梨県立文学館での「まるごと林真理子展」の対談の中で、「夢はまだ続く」と仰っていた林さん。このお祝いの言葉を書いている最中にも、『週刊文春』でのエッセイの連載回数がギネス世界記録に正式認定されたというニュースが飛び込んできた。まさに、今この瞬間も最前線で“今”を駆け抜けているのだと思う。

菊池寛賞、ご受賞、心よりおめでとうございます! 作家・林真理子が紡ぐ物語の続きを、同時代に生きる後輩として、これからも楽しみにしております。

天の目と地の目 片山杜秀(慶応義塾大学法学部教授)

佐藤さんは万能人です。むろん、もとから万能の人などいるわけはありません。驚嘆すべき勉強家なのです。刻苦勉励の真の意味を知っている。しかし現代はルネサンス期ではありません。いくら勉強しても、レオナルド・ダ・ヴィンチのようにすべての学芸に精通するわけには行きません。では佐藤さんはなぜ万能人なのか。勉強の仕方、その奥義を分かっているのです。最大の効率と最強の集中力で凡百の専門人をなぎ倒してしまう。しかもいつもピントが合う。眼力が凄い。その凄さはどこから来るか。佐藤さんは神学の徒です。天の目、鳥の目、形而上学の視点を持っている。その一方で、情報分析に携わる外交官としてのキャリアがあり、獄中まで体験している。地の目、虫の目を持ち、人の情の機微、本居宣長風に言えばもののあはれに通じている。そしてこの世のすべては天の目と地の目という遠近両用眼鏡を持っていれば分かるのです。私は現代日本においてそういう人を他に知りません。ますますのご活躍を!

前代未聞の上演 江川紹子(ジャーナリスト)

びわ湖ホールと3月の『神々の黄昏』上演に関わった全ての皆様に、心からお祝いを申し上げます。

第一報を聞いて、思わず「バンザイ!」を叫びました。オペラ好きの1人として、実にうれしいニュースでした。

ワーグナーの大作『ニーベルングの指環』4部作を、年に1作ずつ上演する、大型企画「びわ湖リング」。その締めくくりの『黄昏』が、コロナ対策で公演中止となったのは、本当に残念でした。

でも、同ホール関係者の尽力で、前代未聞の無観客上演とインターネット配信が実現。しかも、その演奏・演技の素晴らしかったことと言ったら!! 思い出すたびに、感動と興奮が蘇ります。

不安と閉塞感で押しつぶされそうな気持ちでいる中、あの時の音楽は「きっとこの困難を乗り越えていける」という希望の源にもなりました。

コロナ禍で今も手探りの状態が続くオペラ界ですが、今回の受賞は、その完全復活への後押しにもなると思っています。

大きな時代的意義 柳田邦男(ノンフィクション作家)

この国の政権と官僚が、不祥事隠蔽と自己防衛、政策強行のために、重要文書の非公開、廃棄、改竄、説明回避を恣にする政治風土が常道化する中で、イージス・アショアの配備を白紙に戻すきっかけとなった秋田さきがけの報道は、時代的な意義が極めて大きい。

時代的意義とは、一つは、強権政治と情報操作によって民主主義が危うくなっている中で、その歯止めの役割を果たすメディアの存在意義を改めて示したことだ。

もう一つは、政治問題や社会問題で、疑問点が多く納得感が得られない問題に直面した場合に、隠された虚構を暴き、正しい判断のための真実を掴み取るために求められる感性と調査分析の取り組み方を示してくれたことだ。中央紙の記者を含め政権に近いところにいる者は、どうしても国家的視点(大本営的視点)から、官僚の作るデータや図面で問題を大掴みに判断しがちだ。だが地方紙の記者は、現場の住民(生活者)の視点から疑問点を掘り下げる。鳥の目と蟻の目の違いだ。権力政治の暴走を防ぐために求められているのは、蟻の目の動員なのだ。

いつも軽やかで柔らかで 宮沢りえ(女優)

篠山さん! おめでとうございますっ!

昭和、平成、令和と、3つの時代をガシガシと草を分けながら、大物からキラキラとした原石まで、貪欲に、カラフルに、繊細に捉えていく篠山さんは本当にかっこいいと思います。常に前線で生きているのに、いつも軽やかで柔らかで、最高に面白い。

そんな篠山さんと『Santa Fe』という写真集を作ってもうすぐ30年なんですね。なかなか塗り替えられない記録は勿論だけど、1ミリも色褪せることなく素晴らしい作品であり続けるのは、やっぱり篠山さんの才能に尽きると思ってます。まぁ、私も可愛かったけどね…

これからも、篠山さんのカメラのレンズを通して、その時代その瞬間そこにしか存在しない被写体を、圧倒的に魅せ続けて欲しいと心から願っています。だから、まだまだお元気で、パワフルでいらしてくださいませ。敬愛を込めて、もう一度、おめでとーーーーーっ!!!

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