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「100年の恋の物語」がグサリ(編集長ニュースレター vol.29)

 いつもご愛読いただき、ありがとうございます。

 7月号の目玉企画は総力特集「100年の恋の物語」です。
「文藝春秋」がこれだけ大々的に「恋」に取り組むのは、おそらく創刊100年にして初めてのことだと思います。

「一つの恋が時代を変えることもある」というサブタイトルを付けましたが、正義や悪、社会的なモラルといった価値観に反してまでも、誰かを愛し、それが歴史を動かしたり、素晴らしい芸術作品を生み出したりすることは少なくありません。

 皇族、軍人、政治家から、文豪、芸能人まで、さまざまな物語の中で、とりわけ私が深い感慨をおぼえたのは、例えば山本五十六が恋する相手に送った手紙です。

〈方々から手紙などが山のごとく来ますが、私はたったひとりの千代子の手紙ばかりを朝夕恋しく待っております。〉

 この手紙が送られたのは1941年12月28日、山本が指揮した真珠湾攻撃の20日後のことです。

「千代子」とは妻ではなく、もとは新橋芸者で料亭の女将をしていた愛人です。山本から千代子への手紙は10年間で30センチ以上の厚さになったそうですが、戦後、この事実をスクープしたのは先頃休刊した「週刊朝日」(1954年4月18日号)です。タイトルは「山本元帥の愛人 軍神も人間だった!」。

 かつて「政界失楽園」との批判にさらされた船田元さんと畑恵さん。その船田さんが田崎史郎さんのインタビューに応じ、当時の心境を率直に語っています。

「一途な想いなのに、堕落のように書かれるのは、少しなんとかならないものかと(苦笑)」

「これまでの身の振り方に、恥じることはありません。前妻には仕送りをして来ましたし、三人の子とも時々会い、一定の償いと修復はできたと思います」

 大竹しのぶさんのインタビューにも考えさせられました。

 野田秀樹さんと明石家さんまさんとの恋愛についてこう振り返っています。

「一緒にいることで相手の仕事に影響が出ているなら、それは私の望むことじゃない。きっと私は二人の才能に恋していたんでしょう。良き家庭人として甘いだけの金平糖になるのではなく、ギザギザのままでいてほしかったからこそ、別れを選んできたのだと思います」

大竹しのぶ ©文藝春秋

 どの記事も生々しく、紹介しはじめるとキリがないのですが、もう一人だけ、ピーターこと、池畑慎之介さんのインタビューから。

「芸能界では、女装家、男オンナ、ゲイ、同性愛、おひとり様、孤独、そういった『差別の眼』に晒され続けてきました」

 池畑さんはこう問いかけます。

「人の気持ちや生き方を、どうして一括りにするの? 一億人いれば、一億通りの生き方が、あるはずなのに。男も女もなく、人間対人間で付き合えばいいじゃない?」

 他にも、谷崎潤一郎の「二番目の妻(文藝春秋の編集者で、谷崎と別れた後、「文藝春秋」編集長と再婚)」や、大韓航空機爆破事件で逮捕された金賢姫と捜査官の「禁断の恋」など、人間の業がにじむ物語が並んでいます。
「週刊文春」編集長時代、不倫記事を報じてきた私にも、グサリと刺さる特集でした。

 文藝春秋編集長 新谷学