「ワクチン一本足打法」で五輪開催へ……菅政権の希望的観測｜森功

安倍政権で進められた「官邸主導」の実態は、官邸の威光を背に霞が関を牛耳る「官邸官僚主導」だった。その体制は菅政権にも引き継がれた——。ノンフィクション作家の森功氏が、政治を牛耳る官邸官僚を徹底ウォッチ。

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■森功（もり・いさお）　　
1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。出版社勤務を経て、2003年フリーランスのノンフィクション作家に転身。08年に「ヤメ検――司法に巣喰う生態系の研究」で、09年に「同和と銀行――三菱東京UFJの闇」で、2年連続「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞。18年『悪だくみ　「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞を受賞。他の著書に『泥のカネ　裏金王・水谷功と権力者の饗宴』、『なぜ院長は「逃亡犯」にされたのか　見捨てられた原発直下「双葉病院」恐怖の7日間』、『平成経済事件の怪物たち』、『腐った翼　JAL65年の浮沈』、『総理の影　菅義偉の正体』、『日本の暗黒事件』、『高倉健　七つの顔を隠し続けた男』、『地面師　他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』、『官邸官僚　安倍一強を支えた側近政治の罪』など多数。

　東京五輪・パラリンピックに前のめりの菅政権は、ワクチン政策の出遅れを取り戻すべく、首相自ら１日１００万回の接種目標を謳い、総務省に指示を飛ばしてきた。多くの政府関係者は官邸のあまりに前のめりの姿にむしろ不安を募らせている。内閣官房幹部はこう言った。

「総務省では事務次官の黒田（武一郎）をはじめ、旧自治省系の幹部たちが菅首相直々の指令を受け、全国の自治体に接種会場をできる限り多く設置して接種を早めるよう電話をかけまくってきました。おかげで当初、早くて８月末といわれていた高齢者のワクチン接種が大幅に繰り上がったけど、そこには無理もあります」

　菅が第一次安倍政権時代に大臣を務めた総務省は“総理の天領”と呼ばれる。なかでも旧自治省系の幹部たちは、総務大臣時代その強権ぶりを肌で感じ取ってきた。菅自身が推し進めたふるさと納税の政策現場はいまだ語り継がれる。２０１４年６月、ふるさと納税に異を唱えた自治税務局長の平嶋彰英が大臣室に呼びつけられ、叱責を受けた。現事務次官の黒田は内閣官房内閣審議官としてまさにその現場に立ち会っているという。先の内閣官房幹部はこう指摘した。