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古生物飼育小説Lv100 第八十一話をサイトに掲載しました

今回もけっこう間が開いてしまいました!「昆虫大学2022」で久しぶりにひとに会ったり生き物グッズを買えたりしたおかげで、執筆ペースもなんとかなりそうではあります。今回もよろしくお願いいたします。

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カクヨム

以下はネタバレ込みの解説です。

前回「逆に飼わないという英断を描く」「飛ぶ生き物を出す」という話をしたんですけれど、今回は「飼わない」というより「今いる生き物を大事にする」というほうですね(新しく飼うものの準備はしてるわけですが)。さらに、前回は木から斜めに滑空するものだったのが今回は飛ぶ古生物の中でも花形の翼竜……の中で、そこまで注目されていないジュラ紀の変わり者達です。

単行本化作業のときにまとめて描くより個々の話の宣伝にも使えたほうがいいじゃんということで、登場する古生物のシルエット図解を早めに作るようにしてみました。

今回の主役はディモルフォドンなのですが、飛ぶ生き物を出したいと言いつつ主役だけ地面にいるポーズになっていますね。ディモルフォドンは翼竜の中でもそれほど長い間飛んでいなかったと考えられているのです。

これは福井県立恐竜博物館で2012年に行われた翼竜展のときの、ディモルフォドンの復元骨格です。体の割にこんなに頭が大きくては長く飛べないのも当然……という風に見えるかもしれませんが、

頭はしっかりと軽量化されていてそこまで重いわけでもないのです。他の翼竜もここまでではないとはいえ頭は大きいですからね。この大型肉食恐竜を思わせる背の高い頭と、口先は長くて円錐形、口の奥は短く刃形の歯は小動物を捕まえて噛みちぎるのによかったようです。顎の幅は狭いので、今回はソテツや木生シダの葉の間に口を突っ込んで獲物をつまみ出すようにしてみました。

これは筑波実験植物園のシャムソテツです。ジュラ紀当時はソテツ・ベネチテス類・木生シダとこんな風に幹の頂上に羽状の葉が放射状に生える木が多かったので、ディモルフォドンみたいな身軽な動物は獲物の捕えかたも移動の仕方もそういう植物の造りに合わせていたんじゃないかなと思って動かしました。

で、頭が軽かったのならなぜ短い間しか飛ばなかったと考えられているのかは、こちらのポケモン化石博物館のかはく会場で展示された骨格で見てみましょう。こっちは天井にぶら下げての展示だったので翼が見やすいですね。

翼の途中に3本の爪があるのが見えると思いますが、この爪が大きくて目立つということは、飛んでいるときの効率はあまり良くなくて、むしろ手をついて歩くことや木に登ることに向いていたといえます。さらにこの爪から先の第4指、つまり歩きや木登りに関係ない部分が短めなことからも同様のことが言えます。ただ翼の付け根にある筋肉が付く出っ張りはしっかりしているので、羽ばたく力が弱かったわけではないようです。

後肢も翼になっている前肢とあまり変わらないくらいしっかりしていますね。他の翼竜で後肢がだいぶ弱々しくなっているのとはかなり違います。4本足で翼竜としては軽快に歩いたようです。

埼玉県こども動物自然公園のミナミジサイチョウです

飛べるけれどももっぱら歩いて小動物を捕えていた……ということでそんなような生態のミナミジサイチョウという鳥を主なイメージの源にしつつ、歯の生えた顎はワシの曲がったクチバシやオオトカゲの顎に近い、4本足で木にもよく登ったであろうことはオオトカゲなど色々な動物を参考にしたほうがいい……など、ジサイチョウとの違いに気を付けました。

飛ぶ生き物を出したいと言いつつ、その飛べる翼竜の中からむしろあんまり飛ばないことによって生態の面白みが出ているディモルフォドンを選んでしまうのが我ながら面倒なところです。そんな感じなので、あんまり飛ばないディモルフォドンの面白みと、やっぱり飛ぶときは飛ぶということを軸にお話を組み立てていきました。

北九州市立いのちのたび博物館のソルデスです

脇役になった2種について。ソルデスはディモルフォドンと比べるとだいぶ新しいタイプの翼竜です。もっと飛ぶのが得意な体型ではあるんですが、長時間飛んでいたと思われるタイプの翼竜が海の上を飛んでいたと考えられるのに対してソルデスは湖のほとりの森に暮らしていたようです。魚と虫どっちを食べたか際どいんですが、歯をよく見ると円錐形に尖っていたというよりは杭みたいな形をしているように見えたので、魚に突き刺すよりは昆虫を噛み砕いたのかなーと。

翼竜の中で初めて体毛(毛髪状の羽毛)の痕跡が見付かった種類なので、翼竜の中でも特に毛むくじゃらのイメージが強い種類です。でちょうど今年になって別の種類の翼竜の体毛に色々なタイプの色素の痕跡が見付かったということで、多少派手にしてもいいな……と思い、生態は違うと思うんですが体型が割と似ているオナガに色を似せて、「毛むくじゃらの悪霊」という意味の学名から来るイメージを取り除いて書いています。これやらないと古い図鑑の絵が邪魔しちゃって……。

福井県立恐竜博物館で2012年に行われた翼竜展のときのアヌログナトゥスです

今回直接出て来なかったアヌログナトゥスは翼竜の中でも特に変わり者で、最近は翼竜というよりこれ小さい哺乳類じゃね?みたいな見た目に描かれることも多くなりました。この化石を見て分かるとおりの丸っこい頭や体型に毛皮を生やせば哺乳類みたいになるのは無理もないことなんですが、この丸っこさはアヌログナトゥスとその近縁種ならではのものです。このコンパクトな体型と幅広の口を活かして、コウモリのようにひらひらと飛び回り空中の昆虫を捕えていたと考えられています。

現実には空中の昆虫を食べる種類のコウモリは飼えることは飼えるんですが、じっと壁につかまらせたまま昆虫を与えるという方法なので、わざわざ化石から生き返らせた翼竜に対してやらせてもしょうがなかったりするんですね。なので、まずアヌログナトゥスが見付かったドイツの施設でアヌログナトゥスが飛び回れるような飼いかたを模索して、それが確立してから他の国でもよい施設に……という順番にして、劇中ではまだ日本に来ていない段階としました。どうやってアヌログナトゥスに空中で餌を与えるか……、多分ミールワームが入った容器を空中に吊るしておいて、不確定なタイミングでミールワームが這い出してきて落っこちるのでアヌログナトゥスがすかさず飛んできて捕える……みたいな方法だと思います。それ直接書いてよかった気がするな。

今回の舞台である温室のモデルになったのは、井の頭自然文化園に9年前まであった熱帯鳥温室です。その温室は震災の影響でもうもたないことが分かってしまったそうで取り壊されてしまったんですが、もし耐久性に問題がなくてまだ残っていたらというイメージです。これまで翼竜が出てくるときは広い空間を確保したドーム等が舞台だったんですが、あまり飛ばないディモルフォドンには開けた空間よりむしろ複雑な地表を持った施設が合っているということで、古い施設で他の翼竜と違ってあまり飛ばないまま、それでも実は元気に暮らしているディモルフォドン……というイメージは割と初めからできていました。

そこから「あまり飛ばないディモルフォドンが飛ぶところを見たい、なんなら写真に収めて広めたい」というところに進んで、どういう立場の人が観察や撮影に挑むか選んだ結果、動物園と大学が連携して研究を行う事例も見られるのでそれに倣いました。清香は11話の椿の後輩というつもりだったんですけど特にそういう描写を入れる余地はありませんでしたね。あとはもう、どうやって苦労させてどうやって切り抜けさせようかという。

さて次回のことですが、

夏らしいものを出したいので夏の間に書き上げたいですね。

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