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川崎水族館ですよ
1月9日に行ってまいりました。
新しい施設にはすぐに飛びつかず評判が固まるまで待つようにしているのですが、カワスイは開館から2年半くらいになり、当初の華美な都市型水族館のイメージも抜けてきて、比較的地域色の強い水族館になってきているらしいとも聞かれるようになってきました。
多摩川に近い立地ということで多摩川の展示から始まり、熱帯の河川の展示に移るようになっている、淡水専門の比較的小さい水族館です。多摩川の生き物を重点的に扱う水族館があるといいな……と思っていたのですが、その期待におおむねしっかりと応える内容でした。それだけに、ボリューム的にも海外の熱帯魚の展示に負けないくらい拡充されてほしいとも思います。
この前の多摩六都科学館は多摩北東部に重点があって多摩川にはあまり触れていなかったので、多摩県の淡水生物の展示としては補い合う関係にあるかもしれません。
展示の大部分を占める熱帯の生き物もどれも状態が良さそうで、他で見かけない生き物も多く見られます。
また見栄えを重視した水槽にありがちな綺麗だけれども見づらい照明ではなく、華やかに見えるように場内は綺麗に照明しつつ、水槽内は白い照明で魚自身の色や姿をきちんと見せています。
通常の魚名板を目立たないようにしていた痕跡はあるのですが(それで色々言われたりもしていました)QRコードで読み込める解説は詳しく、また意外にも職員さんの手書きの解説も各所に見られます。総じて、思ったより見やすくて発見のある展示となっています。
映像・音響技術でそれぞれの川の周囲に生息している生き物の存在を感じさせる演出もよくできていて、一時期水族館に蔓延していた(まだあるのかな)花火かなにかのようなエンターテイメント一辺倒のプロジェクションマッピングとは一線を画す、水族館で行うプロジェクションマッピングとはこのようなものであってほしいと思えるものです……大きなシアターを除いては。
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駅前のショッピングモールの最上階にあります。入場してすぐ、植物のイラストの間をモルフォチョウやショウジョウトキが飛び交っているのが見えますね……。
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いきなりお食事中のかたにはごめんなさいなのですが、絵の植物の向こうにカバが映し出されていて、池の中でフンをしています。
これに限らず、壁に描かれている絵の中で動物より手前にあるものをきちんと避けるように動物のアニメーションが投影されています。かなり細かい造りで存在感があります。
また、綺麗ではないけれど本来の習性どおりの行動を始めから見せてくれるあたり、展示の内容に期待が持てます。
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最初の展示室、多摩川です。これで多摩川の展示全体なのでやはり規模は小さいのですが、左の壁面には多摩川流域の住民には見覚えのある多摩川の風景が投影されていて、水槽の中にいる魚達が間違いなく見慣れた多摩川に住んでいるものだということを主張しています。
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上流のサケ科の水槽ですが、この写真では岩に注目しています。当然ではあるのですが上流の水槽の岩は角張って、中流・下流と進むと丸い岩や小さな砂利が用いられているのです。多摩六都科学館のときも扱った内容ですが、多摩川に接している近隣住民にとって実感を得やすい要素です。
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オイカワ、アユ、ニゴイ。身近な多摩川にこんなに美しい魚がいるのです。
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円柱水槽のひとつにはタイリクバラタナゴ(リアリズム……!)やアカハライモリと、川本体というより池の生き物が揃っています。大きなメスのイモリが、手の平サイズにもかかわらずまるで池の主のような風格を見せます。
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ニホンウナギがひょっこり顔を出しているのは……底砂に開けた穴や石の隙間ではなく、水草の根の間です。
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こうなることを見越したレイアウトだったのでしょうか、それともウナギとしては砂や石のほうが落ち着くのでしょうか?どちらにしろウナギ自身が選択した予想外の行動が見られました。
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多摩川の様々な生き物を大きく映し出すかたわらには、ちょっと変わったタッチプール……いや、「タッチつち」があります。身近な生き物の世界に文字どおり触れさせる大胆な試みです。このあたりでキジバトの鳴き声も聞こえてくるのがますます身近さをかき立てます。
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動物地理的には日本から比較的近い、オセアニアとアジアの展示に進みます。
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レインボーフィッシュやスポッテッドバラムンディ、さすがに熱帯魚が専門となると植物も含めたレイアウトが見事です。熱帯魚らしい暖色が綺麗に見えますね。
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ネオケラトドゥス(オーストラリアハイギョ)にスッポンモドキと、オーストラリアを強く感じさせる生き物が揃っています。バラムンディもいるということで、ちょっと名古屋港水族館みたい。
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ワライカワセミは小さな施設でも意外とよく見かけますね。ハズバンダリートレーニングに関する解説も行っていました。
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スネークヘッドやアジアアロワナなどが行き交う迷路のような水槽です。ちょっとどういう造りになっているのか一見分からないのですが、入り組んだ形状で熱帯雨林の木々の根元を流れる川に近い地形としているようです。
同じ造りでさらに縦に突き刺さった枝を増やした、ロイヤルナイフフィッシュなど側偏した(縦長の胴体の)魚中心の水槽もありました。
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覗き込まずにいられない半円柱状にせり出した水槽、水草の奥にスネークヘッドのチャンネ・ベルカが潜んでいます。
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中央の黒い魚はそんなに大きくもないように見えますが、成長すると世界最大級のナマズになるメコンオオナマズです。
海のサメのように淡水で上位捕食者の地位についているナマズの仲間ですが、メコンオオナマズは藻類を食べていると考えられています。限られた水族館でしか見られないメコンオオナマズにまさかこんなに近場で出会えるとは思っていませんでした。まだ小さくても迫力を感じます。
水にも熱帯の川を思わせるにごりがついていますね。
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赤い大地を思わせるアフリカの展示へ。
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アフリカで淡水といったらやっぱりシクリッド類が独自に多様化しているタンガニーカ湖ですよね。水槽数個にわたって割と詳しく掘り下げています。
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おや、海水水族館なら普通なものの淡水水族館ではそんなに見ない貝殻が。タンガニーカ湖のネオランプロローグスという魚が卵を中に産み付けるのに利用するネオタウマという巻貝です。
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パンサーカメレオン。ここで初めてカメレオンを見たっていう川崎市の子供もそれなりに多いんでしょうね。
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肺魚のプロトプテルス・エチオピクス。私の特に好きな魚のひとつです。すでにそれなりに育ってますけどまだ大きくなる余地がありそうな気がします。ここまでもそうでしたが、ジムナークスやポリプテルスといった怪魚的なものがしっかり揃っています。
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アフリカンロックシュリンプ。ザリガニのようないかついエビに見えますが、ほうきのような肢で水底にたまった有機物をかき集めて食べるという意外と思い付かなかった生態をしています。
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小さなサルが南米の世界に案内してくれます。
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といって実はこれだけは投影されているだけではなく(ちょっと違う種類ですが)コモンマーモセットのペアが本当にいるんですね。
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その下にはグリーンイグアナやモンキヨコクビガメ、時間によっては活動しているマタコミツオビアルマジロが。
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パンタナル大湿原を再現し、現地の映像を背景にした大きな水槽です。非常に凝ったレイアウトですが……?
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水槽の大きさに反して小さな魚がたくさん。しっかり見ていくのは大変なのですが広大さは伝わります。
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おや、昔見た覚えのある髭面が!普段生き物を扱わないとある雑誌でたまたま熱帯魚の飼育を取り上げたときに載っていた「マツブッシー」のことをしつこく覚えていたのですが、その近縁のスポッテッドブッシープレコでした。こういうやつだったんだなあ。
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再び半円柱形に張り出した水槽にはオオヨコクビガメが!史上最大の淡水性カメであるストゥペンデミスとやや近縁で、大きさもかなりのものです(まあストゥペンデミスには遠く及ばないのですが)。
他の水族館では運悪く大人しくしているところしか見た覚えがなかったので、泳いでいるところを見られてよかったです。
#カワスイ パノラマスクリーンだが…アマゾンカワイルカと混同しやすいのに行動が全然異なるので誤解を招くコビトイルカ、飼育個体かのような行動を取るアマゾンカワイルカ、休まないマナティー、モブ扱いで描画がぶれる魚…製作者と自分の動物観の違いをモロに感じてしまった pic.twitter.com/CxREp39BuU
— 始祖鳥堂まふ(M.A.F.) (@M_A_F_) January 9, 2023
パノラマスクリーン、つまりアマゾン川の中を表わすCG映像を哺乳類メインで投影するスクリーンですが……、あまり何度も詳しく言及しても細かい突っ込みどころをより多く並べ立てることしかできないので、この部分についてはこのツイートを引用して済ませます。
あ、でもこれだけ。
展示を計画した人と展示を見る人の間で動物観にずれがあったとき、その展示が生体や記録映像などの実物に基づくものであれば「生き物のある個体が存在すること自体には意図はない」ため、見せたいものと見たいものの違いはある程度の幅をもって吸収されます。私はいつもこの幅を利用することで自分の見たい情報を読み取ろうとしているわけです。
しかし、その展示がCG映像やイラストなどの創作物の場合、「その創作物が存在すること自体に意図がある」ため、見せたいものと見たいものの違いは明確になります。ここには注意を払うべきだと思います。
例えば極端な話、歯の形を見るのにぬいぐるみは関係ないわけです。ここで上映されているのは、私にとってはぬいぐるみでした。
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気を取り直して。ブラジルのレンソイス・マラニャンセス国立公園の砂丘に雨季になると現れる湖の魚達です。
この地域の展示は他の水族館にないようで、私も初めて知りました。真っ白い砂丘しかない砂漠にポツポツと青い湖が現れるという大変に幻想的な場所であるようです。しかもその急にできた湖に魚も現れるということで、やはり他で見ない種類ばかりです。
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ジャイアントグラストランペットナイフフィッシュとゼブラカラボ……かな?
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ナイフフィッシュの仲間が多いようです。それと、どれも色味が薄い気がします。日光を遮るものがないから紫外線対策?
まさかこんなに変わった環境まるごとを新しく知ることになるとは思わず、ここで特に驚かされた出会いでした。
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カエルや様々な魚の水槽が続き、バックヤードの一部が見える大窓からはここで生まれた稚魚の水槽も並んでいます。
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さて、水族館の熱帯の魚といえば……ここまで出てきていなかったアマゾンの魚です。
熱帯雨林を通り抜けるようなガラスのトンネルが出てきました。
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トンネルのいたるところに小部屋があり、それぞれの水槽にいる各種の魚をくつろぎながら眺めることができます。入り組んだ熱帯雨林を通り抜けて水中を覗き込んでいるようでもありますし、ここまで歩いたり立ち止まったりを繰り返してはいるので小規模とはいえ休憩できてありがたいです。
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充分立派といってよいピラルクーが何尾もいます。
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トンネルの周囲はこんな感じ。ショウジョウトキがいるようなのですが見付かりませんでした。
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カラープロキロダスなどの姿を追っていると、
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いつの間にか水面上にカピバラが登場!(この先のふれあいコーナーのようなところに鎮座しているのを見るよりずっと感動的でした)
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シルバーアロワナのシンプルな姿。ここの照明もシンプルで本当に良かったと思います。
比較的近いところで熱帯の淡水魚がこれだけ充実しているのはもちろん、多摩川の展示があることも大変ありがたいものです。今後も行くことがあると思います。