酩酊、そしてレイディにメーデー
数か月前、久しぶりにとある方々と飲みに行った。飲み会自体はリモートで何回か行っていたものの、実際に居酒屋で飲むのは初めてだったため、緊張感と高揚感が入り混じった不思議な感情で電車に乗り込んだ。
現地まで少し遠かったので時間はかかったが、何事もなく指定の駅に着いた。まもなく二人と合流して居酒屋に向かった。着くや否やビールで乾杯。とあるイベントで会ってからちょくちょく連絡を取り合っていた関係だが、このご時世、画面を通さない対面はおよそ一年半ぶりだった。
久しぶりの再会に会話は弾みお酒も進んで、気づいたら大ジョッキで5,6杯も飲んでいた。自分はお酒に弱いほうではないが、特段強いわけでもない。翌日に予定があったため、名残惜しい気持ちがありつつも一足先に居酒屋を出た。終電の時刻に間に合うか危うかったので駅までダッシュしてエスカレーターを駆け上がったと同時に電車が到着。そのまま乗り込んだ。最寄り駅に着くまでは今日のことを振り返って余韻に浸っていたのだが、その時自分は大切なことを忘れていた。
「お酒を飲んだら走ってはいけない」
居酒屋で大量に飲んだのはビール。そして全力ダッシュの後に二時間近く電車に揺られていた。あと一駅。そろそろ降りる準備だと思ったその時、突然視界が暗くなっていった。血の気が引き、こみ上げてくる不快感。まずい。なぜ急に。ここで降りれなかったら野宿確定だ。頼むから耐えてくれ。
「次は○○~、○○~。お降りの方は…」
俺は次で降りる。そう、絶対に。
車内アナウンスと共に扉が開く。勝った。やり切った。朦朧とする意識でホームに降りた瞬間、安心感で意識がプツッと切れた。数秒後、ものすごい衝撃で現実世界に引き戻された。
気がつくと正面にはまん丸い月があった。一瞬自分がどこにいるか分からなかったが、走り去る電車の音で正気に戻った。こんなに酔ったのはいつぶりか。意識を失うまで飲んだことは無い気がする。よく見ると額から赤い血が流れていた。酔っているので痛くはないが、とりあえず止血しなければ。
起き上がろうとしていると、コツコツというハイヒールの音と共に綺麗なお姉さんが何事もなかったかのように横を通り抜けていった。
メーデーお姉さん、それと、今日は月がキレイですよ。
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